● 患者傷害法の一考察 ●

カール・エスペルソン
(2000年8月発表;筆者はスエーデン患者保険協会法律顧問)



治療に関する情報不足または同意の欠如

任意患者保険の賠償規定には、医学的治療に関して患者に十分な情報を与えていなこと、または患者の同意を得ていないことを理由にした賠償に関しては何も述べられていない。

それで、任意患者保険制度において、情報の問題それ自体は、賠償を受ける権利に関して、独自の重要な意味を全く持っていなかった。その代わり、医療過程を客観的に調査して、治療に伴う特別の危険についての情報が伝えられたかどうかに関係なく、賠償金が支払われた。

法案起草中に、患者傷害法の賠償を受ける権利を拡大して、患者に十分な情報を与えなかったこと、または患者の同意を得なかったことに起因する傷害を含めるかどうか、議論された。この問題の性質が複雑なため、特別の分析を追加することが必要と考えられた。それで、保健医療に関連して、情報不足であるか、または患者の同意を得ていないことに起因する傷害は、患者傷害法では補償しない。

その代わり、不注意で情報を提供しなかったか、同意を得ようとしなかったため傷害を被ったと思っている患者は、一般的な不法行為に関する法律に基づいて賠償金請求を主張できる。

患者傷害賠償金の決定方法

患者傷害賠償金は、「不法行為損害法」の人身侵害(=身体的な被害)賠償規則に従って決定される。賠償金には、経済的損失(即ち、収入の損失、傷害のために被った費用)、非経済的損失(即ち、一時的及び永続的苦痛、苦しみ、生活上の快適さの喪失、仕事上余分なストレス)が含まれる。

それでも、「不法行為損害法」の規則からの逸脱もある。患者傷害賠償金の金額決定に際して、エクセス(超過額、自己負担額)が常に差し引かれねばならない。エクセスは「基本国民保険金額」(現在額1830クローナ)の20分の1に等しい。また、絶対的な限度もある。傷害を被った患者各人に対する賠償金の金額は「基本金額」の200倍(約730万クローナ)を超えてはならない。Compensation is for each injury event limited to a total ceiling of 1000 Basic Amounts (36.6 million SEK). [この文意不明:合計限度額が「基本金額」の1000倍(3660万クローナ)に制限されている各傷害事例に対して賠償金が支払われる。] これらの金額に利息と訴訟費用は含まれない。

回想

患者請求委員会
患者請求委員会は1975年に設立された。1997年に始まったのであるが、この委員会は患者保険協会と言う組織の一部である。

この委員会は委員長と6名の委員で構成されている。委員は3年の任期で選ばれる。委員長は本職の判事であるか、判事経験者で無ければならない。委員長を除く委員のうち3名は、患者の利益の代表で、1名は医学専門家、1名は保険における人身侵害調停手続きに精通し、1名は保健医療活動の専門的知識を持っていなければならない。

この委員会は、患者またはその他の請求者、医療提供者、保険業者、または裁判所が委託した、患者傷害法に基づく賠償事件に関して勧告を出す。この委員会は助言機関であるから、この委員会の意見は勧告である。しかしながら、保険業者は常に勧告に従ってきた。

患者が事件を委員会に提出するのは無料である。患者には自分の患者傷害賠償事件が法廷に持ち込まれる前に、専門家集団に審理してもらえるという利点がある。患者には自分の賠償請求を患者請求委員会に提出するか、直接法廷へ持ち出すかを選択する権利がある。

1975年1月1日から1999年12月31日までに、保険業者はおよそ14万件の治療紛糾届を受け取った。この委員会は、同期間内にそのうちの7223件審理した。現在の時点で委員会が出した結論と保険業者の結論が違うのは、審理件数の約10%である。

一般司法制度の裁判所

任意患者保険制度では、保険業者と被害者の間の紛争は「調停法(1929:145)」に準じた調停により解決されていた。1999年現在で101件の調停が成立している。そのうち30件は被害者に有利に決定されている。

任意患者保険制度の賠償金紛争を調停によって解決する可能性は、新法の出現により消滅した。その代わり、保険業者による最終決定に不満足な患者は、一般司法制度による裁判所に訴訟を起こすことが出来る。

出訴期限

患者傷害法によって賠償金を受け取りたい人は、請求できることを知ってから3年以内に請求しないと賠償金に対する権利を失う。また、どのような場合であっても、傷害発生後10年を超えてはならない。

もし賠償請求人が定められた期間内に医療提供者または保険業者にその傷害を通知していたら、訴訟を起こすために賠償請求人には常に、その件に関して保険業者の最終決定を受け取った日から6ヶ月与えられる。

   


[ TOPICS ] [ NEWS ] [ 医療裁判報告 ] [ KENYA ] [ HOME ]