在宅ケア
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住み慣れた家で死ぬということ
さくらいクリニック  院長 桜井 隆

 
 やすこさんがお母さんのことで相談があるとやってきた。隣町でお兄さん夫婦と同居して脳梗塞のお父さんの介護をなさっているお母さんが肺癌と診断されたと聞いていた。これからお二人をどうやって支えていくか、御家族にとっても大変な問題だ。
 「母の肺癌はかなり進んでいるようで、もう骨にも転移しているんです。」
 「それは、、、で、御本人には?」
 「ええ、家族であれこれ悩んで相談した末にやっぱり本当のことを、、そしたら意外に冷静にそうか、思ったとおりだなんて、、父のこともあるしこれ以上入院や手術は受けない、できるだけ家にいたい、、と、」
 「進行した癌でも場合によっては手術や抗がん剤で治療した方がいい場合もありますが。」
 「主治医の先生とも相談したんですが、今の母の状態では積極的な治療は難しいだろうということでした。」
 「そうですか。できるだけ自宅でお父さんと一緒に過ごしたい、ということですね 。」

 「それでお父さんには?」
 「ええ、母が父にはとりあえず言わないで欲しい、、ということで、、。ところで 先生にお願いなんですが母を往診をしてくれるお医者さんを紹介していただけない でしょうか?、、私としては是非先生にお願いしたいんですがちょっと遠くて無理でしょうから、母の家の近くで誰か、、」
 「確かT市のS川の近くでしたよね。ちょうど市民病院を退職して去年開業した私の友人のIがいますよ。彼なら往診もしてくれるし市民病院との連携もいいですよ 。私から連絡してみましょうか。」
 
 「それはたいへん心強いです。兄も喜びます。家に居るといってもわからないことばかりでこれから先が心配で、、でも肺癌って進んでくるといろんな症状がでてやっぱり最後は入院が必要になるんでしょうか。」
 「そうとは限りませんよ、癌の末期の痛みや苦しみやわらげる緩和ケアの技術も進んでいますし、往診や訪問看護で在宅でも十分痛みのコントロールは可能ですよ。 癌の進行を抑えるような治療と一緒に行うことも可能ですし。万一の場合は入院という選択もありますが、住み慣れた家で残された時間をのんびり過ごせると思いますよ。」

 「なるほど、、少し安心しました。父と母、両方の介護でちょっと大変かもしれませんが、私も泊りに行ったりしてなんとかがんばって見ようか、と思ってるんです 。またいろいろ相談に乗ってくださいね。」
 「ええ、いつでもいらして下さい。お待ちしておりますよ。」

 それから半年後、やすこさんのお母さんは御自宅で有終の美を飾られたと友人のI 医師から連絡があった。御家族に囲まれての安らかな最期だったということだ。最期までお父さんのことを心配して亡くなる1週間前までなんとかお父さんの食事介助までしていたという。
 町医者として8年、地域でたくさんの亡くなっていく方をお見送りさせていだだいた。
連絡がつかず入院してしまったり、宴会からかけつけたり、葬儀やさんより遅くなってしまったり、いろいろ迷惑をかけながら、ひとり、またひとり家で亡くなっていく方をお見送りさせていただく中で私自身がいろんなことを教わっていった。

 そ して家で死ぬことが当たり前だけどすばらしいことに思えてきた。住み慣れた家で家族やペットや食器やお気に入りの物たちや見慣れた壁のしみに囲まれて、最期の限られた時をゆったりと過ごす、最期ぐらいこんなわがままが許されてもいいはずだ。 住み慣れた家で、地域で亡くなっていく方を家族や近所のおばさんやヘルパーさんや保健婦さんや看護婦さんや近所の町医者達がちょっとあわてたり、悲しんだりほ ほえんだりしながら見送る、そんな死の日常化に向けてゆったりと進んで行きたい 。

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