在宅ケア
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「住み慣れた家で死ぬということ」
〜死の日常化に向けて〜 病診連携による在宅ターミナルケア

ターミナルケア 11,4 「がん終末期患者が在宅へ移行するとき」
4.がん終末期患者を在宅で支える  開業医の立場から

さくらいクリニック  院長 桜井 隆


はじめに

 入院はもうイヤだという消極的在宅ケアから、自らの意志で住み慣れた家で病気や障害と共存しながら暮らしたいという積極的在宅ケアを選択する人が増えてきている。その人々を在宅医療や介護保険などで、不十分ながら支えることができるようになってきた。そしてその在宅ケアの延長線上に自然な形で存在する在宅死が増えている。昭和52年に病院死が在宅死数を越えてから約25年、ようやく病院は人生の最期を過ごす場としてはふさわしくない、と振り子は反対に振れ始めたようだ。「死」は本来、医療が管理することではなかったはずだ。病院から離れて自由になって住み慣れた家で有終の美を飾る、そんな当たり前の死を家族や地域の住民そして町医者や看護婦たちが当たり前に看取る、そんな「死のノーマライゼーション、死の日常化」をめざして病診連携による在宅ターミナルケアをおこなっている。そして患者のQOLの維持が最大の目的であり、ある程度期間の限定されるがんの終末期こそ在宅ケアに適しているともえよう。


病診療連携による在宅ターミナルケアの実際

  さくらいクリニックは兵庫県尼崎市北西部の住宅街にある無床のテナント診療所。筆者は内科および整形外科専門医を獲得した後開業したという経緯から内科、整形両サイドの知識を生かして家庭医、地域のコンサルタントとしてプライマリケアを行っている。外来の延長として通院困難な患者にはこちらから伺うというスタイルの往診、訪問看護を行ってきた。当初から積極的にターミナルケアをめざしていたのではないが、在宅ケアの当たり前の結果として在宅死を看取ることになっていった。そして開業医の在宅ターミナルケアで一番の障害となる24時間対応、という壁を当初は個人的連携でしかなかった病診連携をシステム化し利用することでクリアできるようになった。
開業医がターミナルケアを行う場合、最大のネックが「24時間、365日拘束されるのでは?」という懸念であろう。当初近隣の友人医師などに個人的に代理を依頼していたが、夏季休暇や年末年始など休みが重なり困難な場合もあった。この点で関西労災病院外来在宅医療部との連携による在宅ターミナルケアは地域における病診連携体制の良いモデルとなり得るであろう。病院で診断、治療を受けたが癌の転移、再発などでターミナルケアを必要とする患者が在宅に移行する場合に開業医との連携によって在宅ケアをおこなっている。連携による在宅ターミナルケアに移行する対象患者はおおむね以下の3つのパターンがある。

1.病院外来在宅医療部から患者の自宅の地理的関係で当クリニックへ紹介、依頼されるケース。

2.以前から当クリニックに通院中で、検査、治療のために病院へ入院、外来通院していたが再発、転移等で在宅ターミナルケアに移行するケース。

3.紹介やインターネット経由で当クリニックに直接ターミナルケアの依頼があり、当クリニックからバックアップを病院在宅医療部及び緩和ケア病棟に依頼するケース。 1、の病院からの紹介で在宅ターミナルケアに移行するケースが多いが、最近はインターネット上で検索してメイルで本人や家族が在宅ターミナルケア依頼してくるケースがでてきている。利用者による医療サービスの自己選択がすでに始まっているといえよう。こういったケースは今後増えていくと考えられる。

病院からの依頼で在宅ターミナルケアを開始する場合は、病院外来在宅医療部看護婦のコーディネートによって入院中に開業医が病床を訪問、本人、家族ならびに主治医、病棟看護婦と面談し退院前療養指導を行い治療、緩和ケアの引き継ぎ、退院時に必要な医療、介護のマンパワーの確保、福祉用具の準備などを行う。退院後は病院在宅医療部の訪問看護、病院主治医の往診(月1回)、クリニックの往診、訪問看護、訪問リハビリ等をおこなう。基本的に2医療機関から訪問看護の重複は診療報酬上は請求できない(一方がステーションなら可能)ため病院訪問看護からクリニック訪問看護へ引継ぐ形となることが多い。緊急時も基本的に開業医が対応するが連絡不可能の場合などは病院在宅医療部、当直医師が入院受け入れまたは往診でバックアップする。

(症例)Tさん74歳女性、在宅ケアで80歳、胃癌の夫を看取った後、(筆者が看取りを行った)腹部痛を訴え精査、進行した膵臓癌が見つかったが、本人家族とも入院治療を希望せず「じいちゃんのように住み慣れた家で、、」と自宅で当初少量の抗癌剤治療を行っていたが全身倦怠感が強いため本人、家族の希望で中止、その後ペインコントロールのみを行った。亡夫の墓参りにいくなど比較的ADLは保たれていたが、最期の全身状態の悪化がクリニックの夏季休暇の時期となったため病診連携システムを利用し病院訪問看護と病院医師の往診を依頼、病院当直医が自宅で看取りを行った。事前にこういった連携システムの説明が十分であれば患者、家族に不安を与えることはない。


病診連携システムによる在宅ターミナルケアの利点

 基本的に開業主治医の往診、訪問看護等で対応し、緊急時等に病院が入院を含めてバックアップする病診連携システムによる在宅ターミナルケアは患者、開業医、そして病院それぞれにとってメリットがあると考えられる。

1.患者のメリット:
在宅での主治医である開業医の往診、訪問看護だけでなく入院、治療を受けていた病院からの訪問看護と主治医の往診も継続して受けられ、病院医師と開業医が連携して治療に当たることが可能。積極的治療は終了し後は在宅でターミナルケアのみ、という線引きがされるのではなく治療とケア双方の連続性が保たれる。緊急時には再入院可能という安心感があり患者、家族が病院から見放されたという不安がなく在宅ケアの継続が可能、最期まで在宅ケアの継続が可能で結果として在宅死が可能となる。

2.開業医のメリット:
入院中から患者の状態把握が可能で在宅ケアへの移行がスムーズ。症状コントロールや緊急時に病院医師への相談、受診、入院依頼が可能。学会出張、休暇時に病院医師が対応してくれて安心、24時間365日拘束されることなく学会参加や休暇をとることが可能でサービス提供サイドのQOLの維持も可能である(前述のように筆者が夏季休暇中に病院医師が代理で往診、ターミナルケア及び看取りをしてくれたケースがある)。新しい在宅医療、緩和ケア、疼痛管理の技術等を病院スタッフから自院スタッフへ指導、引き継ぎが可能。

3.病院のメリット:
在宅医療部を通じて地域開業医との連携が可能、また病院医師やナースなど医療スタッフが在宅医療に対する関心、知識を持つきっかけとなる。在院日数の短縮が可能。

4.病診療連携システムの問題点:
在宅ターミナルケアに対応する開業医が少ない。病院医師が多忙で往診が困難、また国公立病院の医師は専従義務のため院外の往診が制度上不可能。条件によって介護保険または医療保険となる(原則は癌末期患者の訪問看護は医療保険からの給付)訪問看護の位置づけ、自己負担、状態が急速に変化するターミナルケア患者のケアプランなどの対応が不十分。病院スタッフと診療所スタッフの意志疎通がうまくいかないと末期の治療、ケアのイニシアティブをどちらがとるのかで患者、家族を混乱させてしまう恐れがある。


在宅ケアを担当する立場から病院スタッフへ望むこと

1、生活の場、住み慣れた家での療養を支えるケアを
 終末期のケアは特に患者に残された限りある時間のQOLを高めることを目的として患者、家族の思いに医療者が寄り添う形で行われるべきで、決して医療サイドの方針を押し付けるケアであってはならない。その意味で医療者主体の場、病院ではなく、生活の場である在宅の方が患者、家族が主導権をとりやすい環境といえるだろう。 自宅での医療はあくまで患者の生活をささえるサービスのひとつであってその意味で病院での医療とは根本的に異なっている。がん末期の在宅ケアであっても病院医療をそのま在宅へま持ち込む形では本来の在宅ケアはなりたたたないだろう。

2.在宅か入院か?
 在宅という選択肢を提案することから 患者、家族に選択してもらう場合入院と違って在宅でのサービスについては患者はほとんど知識がない。情報提供なしにいきなり在宅ケアを勧めても患者、家族は不安がるだけだ。往診、訪問看護、福祉機器、ヘルパー派遣などのサービスについてコストの自己負担額も含めて情報提供が必要だ。骨転移や後遺症で身体障害があれば身体障害者手帳の取得(申請から認定まで地域によるが1−2カ月必要)や65歳以上(特定疾患であれば40歳以上)なら介護保険の利用(申請時にさかのぼって認定結果が有効)も説明する。在宅でのサービスを提示し入院、在宅のメリット、デメリットを理解した上でどちらかを選択してもらう必要がある。この点で病院スタッフの果す役割は大きい。現状ではがん末期の患者、家族が自ら在宅ケアを求めるケースはまだ少なく最初に病院スタッフの在宅ケアへの提案がなければ選択肢として考慮されない可能性もあるからだ。全く在宅ケアの経験のない病院スタッフに在宅ケアの説明は困難かもしれない。訪問活動を行っていない病院では最初は外来または病棟スタッフの有志がボランティアとしてでも在宅へ移行した患者宅を訪れるなどして在宅ケアの実際に触れてみる必要があるだろう。それも困難なら在宅ケアを実践している診療所医師や訪問看護婦を院内に引き入れて在宅ケアについての知識を病院スタッフが患者、家族と共に学ぶ姿勢が望まれる。

3.在宅ターミナルケアの可能な条件とは?
 在宅ターミナルケアの可能な条件として「患者自身が強く在宅を望んでいる、はっきり告知されている、家族が一致して在宅を希望している、、、」といった条件が上げられることが多いが、すべてがそろわなくても在宅ターミナルケアは可能である。あなたは仕事や用事が済めば自分の家に帰るだろう。それが当たり前だ。なぜ家に帰るのに条件、がいるのだろうか?それは病気や障害があっても、がんの末期であろうと同じはずだ。入院を基準とした視点からではなく、住み慣れた家にいるのが当たり前という視点から患者の立場で考えて見る必要がある。そしてどうしても家に居るのが困難となる条件、たとえば痛みが強い、介護者がいない、往診の医者は、、といったバリアーをどうやってクリアするか、という視点で在宅ケアを考えてみてはどうだろうか。ここではそのバリアーを患者と医療者が共同作業でクリアしていく姿勢が必要だ。WHOの三段階治療ラダーに準じた緩和ケアで末期がん患者の疼痛管理は在宅でも9割以上が可能であるし、ターミナルケアに力を入れる診療所、訪問看護ステーション、麻薬の院外処方を受ける調剤薬局も少しずつ増えてきている。また介護保険など社会資源の活用でかなりの部分介護力が確保できる。完全独居でも多少のコストを覚悟すれば泊まりこみの家政婦などを利用して最期まで自宅で過ごすことが可能となる。入院を基本としての発想ではなく在宅を基本とする発想に転換した時、患者の残された時間を有意義にするために医療の果す役割が主ではなく裏方であることにも気づくはずだ。

4.在宅への移行の時期
 患者、家族のみならず医療者サイドにもがん終末期に在宅へ移行するということは病院ではもうすることがない、すなわちすべてをあきらめた、、というニュアンスがあるためどうしても時期を逸してしまう事が多い。この問題は告知の問題も含めて本人だけでなく特に介護する家族サイドの意向を尊重せざるをえないためさらに複雑となる。手術や放射線治療など特殊な処置を除けば在宅でもある程度治療の継続は可能で、在宅ケア=見放された という構図ではないこと、積極的治療と緩和医療は一つが終わってもう一つが始まるのではなく常に平行して行われるトータルケアであるという意識が必要だ。余命が月単位と予想される時点で在宅へ移行できれば残された時間を在宅で比較的有意義に過ごすチャンスはあるだろう。外来通院の場合も通院自体で患者はかなりの労力を浪費している場合があるので通院から在宅ケアに切替えることでかなり患者のQOLを向上できる可能性がある。入院の場合、時間的余裕があればとりあえず外出や外泊から始めて患者、家族に家での生活も可能であると感じてもらうことから始めてほしい。この時点で在宅ケアのスタッフへの紹介ができていて外泊時に訪問看護婦や在宅担当医が自宅を訪問できれば望ましい。また病院スタッフと在宅ケアを担当するスタッフは必ず直接会って、できれば患者、家族と共にミーティングを行って共に支援する姿勢を具体的に感じてもらう必要がある。決してFAXや電話、メイルだけでは良い連携システムは作れない。

5、検査、治療は患者のQOLを優先して
  どうしても入院中はさまざまな医療機器による検査がおこなわれることが多く末期癌患者に対しても例外ではない。原則として検査によって治療方針が変わらないのであればその検査は本当に必要かどうか、考えて見る必要があるだろう。また単に延命を計る安易な点滴による水分補給や高カロリー輸液もそれが患者の全身状態、QOLによい影響を与える時に限り行うべきだろう。入院中に濃厚な治療を受けている場合、在宅への移行が困難となることがある。特に末期癌患者に対する高カロリー輸液の適応は単なる延命だけでなく本人のQOL改善につながるかどうかを十分考慮して行うべきであろう。本来はこういった治療も患者本人や家族と相談の上行われるべきだろうが、現実はなかなかむずかしい。ただ、いえることは末期癌患者にとっては過剰輸液によるWETな状態よりDRYな状態の方がさまざまな症状コントロールが容易であるということだ。

6、いわるゆ告知の問題
 ターミナル期の説明で医療者を悩ませるのが告知や延命治療に関しての患者と家族の意向のずれであろう。世論調査でも本人と家族の意向の差ははっきりと現れている。すなわち極論すれば「自分自身の場合はっきり告知を希望、延命治療は望まないが、家族には告知せず延命治療を望む」という傾向だ。現状では家族の意向に添って対応せざるを得ないケースもあるが本来は本人の意思を尊重すべきだ。必ずしも患者ー家族関係が良好とは限らないことも考慮する必要がある。在宅ターミナルケアの場合はすでに家族と病院主治医との間で本人への告知に関しての密約?ができていて本人が情報から除外されているケースも多い。もちろん本当のことを本人に伝えていただいたほうが在宅への移行はスムースではあるが、決して在宅ケアへの移行の必須条件ではない。筆者は在宅ケアを行う中で本人から病気や予後について問われた場合にはできるだけ正直に真実を伝えたい、と家族に了解をゆっくり求めるようにしている。「本人が真実を知ることは確かにつらいが、このIT化社会の中で本人だけを情報鎖国状態に置き続けることは不可能に近いし、知らされないで疑心暗鬼になって人生を共に歩み喜びや悲しみを分かち合ってきた家族との間に最後に溝ができてしまうことの方が不幸になる可能性がある。本人が望むのなら状況に応じて本当のことを話した方が知らないで苦しむより楽になるのでは、、。」本来はこういった大事なことは医師からでなく家族から伝えるか、あるいは本人と家族同時に聞いてもらうべきだろう。住み慣れた家に帰って精神的にも少し落ち着いた本人がゆるやかに真実を受け入れるケースも多い。本人の希望があって癌の再発や転移、余命について説明した場合、家族が心配するように本人が極度に取り乱したりするケースは少ない。

7.余命の予測
  「あと3カ月と言われたのに、、」医師が何気なく言った言葉の中で数字だけが一人歩きすることがある。予後の予測は慎重に幅を持って行った方がいい。医師は預言者ではない。「年は越せると思いますが、来春のお花見はちょっとむずかしいかも、、」という婉曲な表現にとどめるべきであろう。そしていかなる場合も急激な症状の変化によって時期が早まる可能性を示唆しておく。患者、家族は必ずしも正確な数字を知りたいのではなく死の受容の過程としてある程度の予測ができれば十分な場合が多い。筆者は「月、週、日、時間」とおおむね単位で予後を予測して説明する。この際気をつけるべきことは残り時間を知らされて生きるという今まで人類があまり経験したことのない状態におかれた患者、家族の気持ちを尊重することだ。さまざまな代替療法、民間療法に奇跡を求める患者、家族の思いをエビデンスがない、と科学者として冷酷に切り捨てるのではなく隣人として支える姿勢も必要だろう。

8.再入院の可能性
 在宅ケアに移行した場合でも必要に応じて再入院が可能であることを病院サイドで保証していただければ患者、家族、そして在宅の主治医も安心である。いつでも入院できる、という安心感があれば結果として最期まで自宅で過ごせることが多い。場合によっては入退院を繰り返すことも人生最後のわがまま、として受け入れていただければ幸いである。


問題点と今後の課題
 
  年間死亡者数が100万人を越え、そのうち30万以上が癌で亡くなっていく時代に在宅死は今後も増加してだろう。在宅ターミナルケアを支える医療、介護の支援体制の整備も早急に必要だ。末期がん患者の病院から在宅への移行がスムーズに行かないと残された人生最期の貴重な時間を無駄にしてしまうことになる。すべてのがん末期患者が在宅ケアに適しているとは思わないが、少なくとも一度は在宅ケアの可能性を提案し、できれば一度は試してみてもいいだろう、ダメなら再入院し、条件を整えてまた在宅へ、ということも可能かもしれない。病院及び地域の医療スタッフの連携による入院、外来、在宅といった制度を越え連続したケアが、長期の療養が必要となるがん患者には必要だ。そういったなめらかな連携の流れの中にゆったりと浮かぶ船、そんな風に支えることができればいい。そこでは当たり前にがん患者のQOLを尊重し、自己決定を支えることが可能となるだろう。病院、自宅といったバリアを越た自らの属する地域のコミュニティで有終の美を飾る、そんな当たり前の死を家族や近所の友人や看護婦や町医者や病院のスタッフがゆったりと自然に看取る、そんな死の日常化へ向かって進んで行きたい。

 

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