はじめに
在宅での看取りのインフォームド・コンセント(以下IC)とは”死にゆく過程”を本人及び家族に理解してもらう、ということだろう。死ぬことはすべての人に訪れる当たり前のことで、ほんの数十年前まで人々が暮らす地域、家の中での日常的なできごとであり、決して医学、医療の手の中で管理されてしまう非日常的なものでなく、ICといった概念からは遠い存在であったはずだ。
医療の進歩とともに病室という密室に隔離され、いつのまにか人々に日常から遠い存在となってしまった”死ぬこと”を再び日常へ取り戻すのに”住み慣れた家”というのはとてもいい場所だ。そこでは本人、家族が主人公で医療者は単なる訪問者だ。住み慣れた家で生き、そして逝く人と家族、その日常生活の一部を医療が支えるに過ぎない。そこでのコミュニケーションのすべてがICともいえるだろう。その思いからあえて”同意書”という形は掲載しなかった。いろいろな語りの中で、情報提供自体が患者、家族そして医療者自身を癒すことにつながっていく、そんなケアができればいい。
患者用説説明文書
住み慣れた御自宅で御家族を看取られる方へ
さまざまな御苦労を乗り越えて御自宅での療養を続けてこられましたが、症状の変化から少しずつお別れの時が近づいて来ていることが、御家族の皆さまにも察していただけるかと思います。人生最後の時を住み慣れた御自宅で、御家族や御近所の方に囲まれてゆったりと過ごし有終の美を飾る、いろいろな思いが走馬灯のように駆け巡ると同時に、これからの症状の変化にどのように対処すればいいのか、心配になる時期とも思います。
できる限り落ち着いてゆったりとお別れできますように心の準備をしていただければと思います。
残された時間が週単位から日数単位になったと予想される場合、必要なら医師や看護師が頻回に訪問して、御本人に痛みや苦しみがないように最善の努力をさせていただきたいと思います。御本人の容態の変化だけでなく、介護なさる御家族の健康や介護の方法、医療、福祉の費用に関することなど、御心配なことはなんでも遠慮なく相談してください。電話やメイルでの御相談にもできる限り応じさせていただきます。
在宅か入院か
家で最後まで過されるか入院なさるか、はいつでも変更なさって結構です。一度在宅と決めたからと御本人も御家族も大変つらいのにがまんなさることはありません。御希望に応じて一般病棟、緩和ケア病棟、ホスピス等への入院を手配いたしますが、ベッドの空き具合などによって必ずしも即時に御希望に応じかねる場合があることをご了承下さい。場合によっては一度入院なさってまた再び在宅へという選択も可能です。
痛みの治療
できる限り痛みや苦痛を柔らげる緩和ケアを行います。世界保健機構、WHOの”癌疼痛治療法”に添ってモルヒネなどの鎮痛剤を用いて適切なケアを行えば在宅でもほとんどの場合、疼痛緩和ケアが可能です。ただし医療的な処置より御家族のやさしい言葉や痛いところをさするといった”手当て”の方が御本人にとってやすらぎとなる場合もあります。在宅の場合医師、看護師が常にそばにおりませんので、御家族にもある程度薬のことを知っていただいて症状に応じた飲み薬、座薬や貼薬の使用法を理解をしていただければ幸いです。
点滴、経管栄養などの延命治療
だんだん食べられなくなるとなんとかして栄養を、と考えられるのが御家族のお気持ちです。御本人の望まれるもので食べやすいもの、むせないものは何でも食べていただいて結構です。しかしあまり無理に食事を強制するとかえって御本人の負担になることもあるようです。食べるという行為だけでなくすべての体の機能が弱っていて、栄養分を必要としなくなっている結果食べる量が減っている、とも考えられるからです。少量の点滴が脱水を改善して体調を良くすることもありますが、あまり過剰な点滴はむくみや痰を多くし、かえって本人を苦しめることもあります。
残された時間が週単位から日数単位になってきた時の様子
周囲に対する感心がなくなり、次第に御自分の世界に入っていこうとなさいます。まず新聞、テレビ、といった世間に興味がなくなり、続いて親しい人々に対してもだんだん無関心になっていきます。外界との距離をとって次第に御自分の世界に入っていかれるようです。
うとうと寝ていることが多くなりますが、呼ぶと目をあけ反応します。 食事の量が減り、ほおや目などのやせが目立つようになります。 食物や水分が飲み込みにくくなりむせることがあります。
(プリンやゼリーなどつるっとしたものが飲み込みやすいこともあります。) 一時的に元気になったり、急にしっかりしていろいろしゃべってたりすることもあります。
わけのわからないことをしゃべったり、ちょっと興奮して手足を動かしたりすることがあります。 便や尿を失敗することがあります。 口が乾燥して言葉が出にくくなり、痰がきれにくくなります。
(氷やぬらした綿棒などで口をしめらせるとしゃべりやすいこともあります。) 手足が冷たく青白くなっていきます。(しだいに血圧が下るため)
いよいよ死が訪れ息をひきとられる時の様子
呼んでもさすっても反応がなくほとんど動かなくなります。 (この時期でも耳は聴こえている可能性があるといわれています。いろいろ話しかけてあげてください。)
大きく息をした後10ー15秒止って、また息をする波のような呼吸の仕方になります。肩や下顎を上下させて浅い呼吸をするようになります。(少し苦しそうに見えますが、御本人はすでに意識がなく苦しみはないと思われます。)
やがて呼吸が止り、胸や顎の動きがなくなります。
脈が触れなくなり心臓が止ります。 手足が冷たくなり次第に固くなって来ます。 (気温にもよりますが、急に固くなってしまうことはありません、ゆっくりお別れなさって下さい。)
以上の死に逝く過程は一般的なものを例としてお示ししており、人それぞれ顔や性格が違うように個人差があります。急激に進んでお別れの時期が早くなったり、逆に予想外に元気になられたり、それぞれの経過をたどられます。
(どの時点で医師を呼ぶかは御家族の判断におまかせいたします。)
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