summary
医療、福祉、介護、保健の連携はそれぞれのサービス提供サイドの視点で行うのではなく、利用者の立場から見たものでなければならない。
本来住み慣れた家で、地域で暮らし続けることができるように「生、老、病、死」の流れに寄り添うサポートが利用者の立場からは必要とされる。
病気や障害と闘う、あるいは付き合うという局面に置かれた利用者、患者ができるだけ今までと同じように当たり前に生活する、そして最期は有終の美を飾る、という当たり前の死をふわっと支える、そのための病診連携でなければならない。
生活サポーターとしての専門家
あるひとりの人が生まれ、成長し、生きて、そしていつの日か年老い、あるいは病に倒れて、ある日死んで逝く。そんなきわめて当たり前の「生、老、病、死」の流を支えるのが本来の目的であるはずの保健、福祉、介護、医療。多様化するライフスタイルと複雑化する社会システムの中で、そういった人生の流れに沿って、それぞれの節目で適切なサービスを受けることは決して簡単ではない。必要なサービスに対しては自らアクセスし、要求しなければなかなか手に入らない。さまざまな社会保障システムは、今だに多くの問題や不足はあるとはいうものの、その質も量もそれなりには充実してきてはいる。それぞれに専門化されたサービスはタイミング良く的を得て利用すれば有用であろう。しかしたとえば、病気や障害を持つ人が「医療保険、介護保険、支援費制度」この3つの制度をうまく使いこなして必要なサービスをスムーズに手に入れるにはかなりの知識とアクセス能力が必要とされる。特に生活の場を移動し、医療の管理下となる入院はまさに非日常的な異次元の世界で患者にとってのストレスはかなりのものとなる、そんな危機的イベントである入退院に際しては連続したケアを適切に提供するサポーターとしての専門家の援助が必要とされる。
Aさんに寄り添うケア
たとえば、生来健康であった63歳のAさんが、痰に血が混じる、という初期症状で始まった肺癌で3年後には死亡する、というストーリーを想定してみよう。本来はAさんを治癒し、健康に生存させるのが医療の役割とされていた。病気の治癒こそ勝利であり、治癒できないこと=敗北、死は敗北とされた20世紀を経て、やっと「老、病、死」に寄り添う医療、福祉のシステムが21世紀に構築されようとしている。その流れの中で医療、福祉を含めた社会保障制度はどのようにAさんにかかわり、どのようにAさんを支援することができるのだろうか?
そういった意味合いで捕らえるならば、急性期病院との双方向連携によるプライマリケアと末期医療は決して別々のものではない。河の流れがダムや堰で途切れることがなくとうとうと流れ、海へと帰っていくように「生、老、病、死」を、そんな自然で当たり前の流れとして支援するのが連携システムの目的であることがおのずと見えてくるだろう。そこにはいろいろな形で援助者の介入が必要だ。
元来ヘビースモーカーであったAさん、63歳の誕生日を過ぎたころから、朝起きがけに痰に血が混じるようになった。まさか肺癌?と頭では否定しながらも、4回、5回と繰り返す血痰にはさすがに心配になってくる。一度病院へ行ってみようか?もし肺癌だったら恐いし、でも放っとくのも心配。とりあえず受診するとして、大きな総合病院か?あるいは近くのクリニックで相談してみようか?まず風邪や怪我などで家族もかかったこともある近くのSクリニックを受診してみることにした。
プライマリケアでの診ー病連携
Aさんの胸部XPで異常陰影を見つけたクリニックのS医師は、精査のために病院受診を計画、ここで、診療所ー病院間の連携が必要となる。肺癌疑い、との紹介状とXP写真をAさんに持たせて近くの総合病院へ「00病院 主治医 御侍史」として行ってもらうのが診ー病連携だろうか。必要なのは肺癌の診断、治療の専門家への直接のアクセスだ。紹介先の病院の肺癌治療について、診断、治療、手術、化学療法、放射線治療が可能か、といった情報を事前にある程度知っておく必要がある。最近は手術件数、治療成績なども一般に公表され病院機能評価がおこなわれるようになってきている。街の家庭医としては目の前の患者が適切な治療を受けられるように紹介先を選ばなければならない。
S医師は、肺癌治療で実績のあるK病院のG医師宛に紹介状を書くことにする。G医師の外来担当日を調べ(外来担当日や、医師の専門分野といった連携に必要な情報が最近は病院から積極的に提供されるようになってきている)その日に受診するように指示。FAXを利用し病院の地域医療室を通して外来受診の予約を取ることも可能だ。G医師と個人的面識があればなおスムーズだろう。特殊な状況、たとえば要介護家族をかかえており、本人の入院に際しては要介護家族の短期ー中期の入所が必要でそのアレンジのために入院予定を早めに知らせて欲しいとか、本人は知人の話から極端に抗癌剤治療を怖がっているので詳しい説明を、といったような個人的ではあるが、大切な情報を専門医に提供することも家庭医の役割のひとつだろう。
そしてAさんを病院へ紹介した後、入院後も実際に病院を訪問するなどしてフォローするといったケアも必要だろう。家庭医が入院した紹介患者の病床を訪れることは、患者サイドにとっては本当にうれしい病診連携である。必要に応じて治療方針の決定時や手術の説明に立ち会うなど、主治医と本人の間に”通訳”として介在して、専門医療との橋渡しを行う、あるいは患者の希望や疑問を専門医に伝えるといった連携、治療の継続性が患者サイドからみた真の診ー病連携だろう。突然病気や障害にさらされ、人生最大の危機に直面している患者、家族にとって多くの援助者が、それぞれの局面で次々に交代してしまい連続性がない、というストレスはかなりのものだ。継続して見守る控えめな援助者の存在、がそこには必要とされるに違いない。
退院支援としての病ー診連携
そして病院での治療を終えて住み慣れた家へ帰ることになる。病院は治療するところで、療養したり生活したりする場ではないからだ。在院日数はますます短くなる傾向にあり、入院時、あるいは入院前からすでに退院後のケアの準備が必要となりつつある。
在宅ケアへの導入のパターンはおおまかに以下の3つがある。
1。以前から当クリニックへ通院中の患者が入院、治療を終え在宅へ帰ってくる場合。(診ー病ー診 継続パターン)
2。病院在宅医療部などの紹介により地域へ帰って来る場合。(病ー診 連携パターン)
3。患者本人、家族によるインターネットアクセスによるもの。(自己アクセスパターン)
1。診ー病ー診 継続パターン
家族を含めて時間軸にそった信頼関係が築きやすく、継続したケアの提供が可能で、地域に根ざし地域の住民の”生、老、病、死”に寄り添う家庭医療の真髄ともいえるパターンだろう。継続して家族ぐるみの相談に乗ることが可能で、万一の良くない経過でも寄り添うホームホスピスケアへの移行もスムーズである。多くの国がゲートキーパーとしての地域の医師への受診から病院への紹介、というパターンをとっている中で、フリーアクセス可能な日本の医療制度では直接病院受診するケースも多いため、こういった継続パターンが取りにくいのは若干の問題点かもしれない。
2。病ー診 連携パターン(関西労災病院との連携の実際)
在宅医療部、退院支援室などの紹介によって病院から退院後在宅ケアに移行するパターンである。筆者が連携している関西労災病院では昭和61年から看護師が所属する「在宅医療室」を開設しており地域医療、福祉機関との連携を培ってきた。入院中の患者が家に帰りたい、家族が家に連れて帰りたい、という在宅ケアの意志表示をした場合、あるいはこれ以上の入院治療より在宅でのケアが相応しいと主治医や看護師が判断した場合、在宅医療部(現在はケースワーカー等を含めた”よろず相談プラザ”へと組織を拡大)へ相談する。在宅医療部の看護師が病室へ出向いて患者、家族の希望、意志を確認、意志統一をはかり、在宅ケアの現場で必要な医療処置、介護技術の修得を主治医、病棟看護師と共に支援する。さらに在宅ケアでのかかりつけ医探しの援助や、福祉、介護サービス、介護保険の申請、ケアマネージャー選定、ケアプランの作成の支援をおこなう。
在宅医療部の看護師は実際に訪問看護にも出向いており、在宅ケアの現場を熟知しているという点がポイントであろう。
入院患者、家族が在宅ケアに踏み切れない原因のひとつに、在宅ケアに対する情報不足がある。入院で受けられるサービスについては経験済みであるが、在宅ケアでのサービスは患者本人、家族ともに未経験で、さらに病棟スタッフも在宅ケアに対する経験、知識がないために適切な情報提供ができない。どちらにするか、という選択は入院、在宅、のそれぞれのサービスについて同程度の知識があってはじめて可能で、その意味で実際に訪問看護を行っており、在宅ケアの経験者である退院支援室や在宅医療部に所属する看護師が情報提供できる、という環境はすばらしい。
入院以前からのかかりつけ医がいない場合や、もしいても在宅ケア、あるいは癌末期の疼痛管理などに対応できない場合は、それぞれの地域で適切な医療機関を紹介し連携するのも在宅医療部の仕事だ。この際、我々家庭医が患者の紹介先の病院、医師を選択するのと同じように、病院サイドもある程度紹介先としての地域の医療機関の選別を行っている。連携による24時間対応が可能か、オピオイドによる癌性疼痛のケアが可能か、在宅高カロリー輸液、在宅酸素、人工呼吸器管理といったハイテク在宅に対応可能か、自宅での看取りにまで対応できるか、といった状況判断した上で紹介先を選定する必要がある。
関西労災病院では、こういった”かかりつけ医制”の導入によって地域への逆紹介が可能となっており、このシステムに基づいて多くの患者が安心して地域へ、住み慣れた自宅へ帰ることができている。その成果は、特に在宅ターミナルケアで顕著で、システムで在宅ケアをうけた患者のおよそ6割以上が最終的に自宅での最期が可能となっていることは特筆に値する。「いつでも入院できますよ」という病院のバックアップ体制がしっかり確保されていれば、安心して住み慣れた家で有終の美を飾ることが可能となるということだろう。
3。自己アクセスパターン
しかしその一方で、インターネットを通じて当クリニックのホームページへ自己アクセスし、在宅ケアへの道を自ら切り開いて退院してくる患者、家族の増加も著しい。本来、我々医療サイドが情報提供、支援すべきなのだろうが、ネット等を通じた情報流通はそれ以上に患者、家族の自己決定、自己選択を押し進めている。今後もこういった情報アクセス能力の高い人達による自己選択はどんどん増えていくだろう。
連携システムのメリット
こういったケアの継続性、を確保するのが連携システムの目的である。患者、家庭医、病院三者にとってそれぞれメリットがある。
1。患者のメリット
在宅ー入院といった流れがスムーズ。
病院、家庭医双方からの訪問看護、往診が受けられ、医療が継続する安心感がある。
病院在宅医療部看護師の訪問、場合によっては病院医師の往診があり、緊急時には再入院が可能で、病院から見放されたという心配がなく、結果として最期まで在宅で過すことが可能となる。
2。開業医のメリット
入院中から患者の状態把握が可能で、在宅ケアへの移行がスムーズ。
緊急時やトラブル発生時などに病院看護師、医師への相談、受診、入院受け入れが可能。
学会出張、休暇時に病院がバックアップしてくれる。
新しい在宅医療、緩和ケアなどの知識、技術を病院スタッフから導入できる。
3。病院のメリット
在宅医療部を通して地域医療機関との連携が可能。
病院医師が在宅ケアに関心を持つきっかけとなる。
在院日数の短縮が可能。
地域期間病院としての評価が高まる。
問題点
ハイテク在宅ケアや、24時間対応、ホスピスケアに対応する開業医が少ない。
病院スタッフの在宅ケアに関する知識が少ないため患者に情報提供できない(退院支援室につなげられない)。
患者の病院医療に対する過大な期待のために在宅への移行が困難な場合がある。
在院日数の短縮で準備期間が短かい、また短期間で状態の変化が大きい末期癌患者は、介護保険、支援費制度といった社会資源の利用が困難。
Aさんのホームホスピスケア
手術、放射線治療、抗癌剤、と手を尽くして闘ってきたAさんの肺癌が再発、転移してしまった。たのみのイレッサも肝機能障害、湿疹、そして間質性肺炎のためにこれ以上の継続は困難となってしまった。憔悴しきった表情で相談に訪れたAさんの奥さん。家に帰りたい、という本人の今の憶いを叶えたい、そんな家族に寄り添うケア、を迅速にマネージメントするのが家庭医の役割であり、病ー診連携システムの力を最大限に利用する時だ。即座に病院に出向いて本人の意志確認、主治医、病棟看護師、在宅支援室看護師やケースワーカーと連絡をとり、当クリニック訪問看護師とともに在宅ケアをスタートする。この時点でAさんが65歳に達していれば介護保険が使用できるのだが。(ようやく来年度の介護保険制度の見直しで、40歳以上、65歳以下の末期癌患者にも介護保険が適応となる。が40歳以下の若年癌患者への適応はない。)比較的短期間で状態の変化が多い末期癌患者の在宅でのケアマネージメントは、臨機応変に迅速にしかも適切に対応する「ターミナルケアマネージメント」とでもいうべき特殊なケアが必要で、ケアマネージャーの力量が問われる。
住み慣れた自宅へ帰り、ペインコントロールを受けてゆったりとした日々を過したAさんにもやがて最期の刻が訪れる。お別れの悲しみの中にも自宅で、自分達で最期まで介護したという充実感、家族のあたたかい涙を援助者としてそっと見守ることができればいい。
重層するネットワーク
医療の視点から家庭医ー病院専門医ー家庭医と連続するケアの必要性について考えてみた。こういったケアの連続性は空間的には病診連携システムの構築によって可能となる。そしてその経験はサービス提供サイドには蓄積されていくが、利用者である患者サイドにはサービス利用に関する情報が蓄積されず、相互に提供されない、という欠点がある。
特に患者、家族が孤立しやすい在宅ケアの現場ではその傾向がある。癌患者自身や、家族、遺族の闘病経験、システム利用経験を時間的に次へと伝えようとする動きが地域で始まっている。たとえば癌患者と家族の会”かざぐるま”と遺族の会 ”おおぞら ”である。それぞれにあるいは協同で情報交換会、勉強会を行ってケアに対する知識を広めようという試みだ。また医療サイドに向けての利用者の立場での要望や希望を発信しようとしている。こういった声に耳を傾け、情報を共有することでさらに利用者視点の病ー診連携が築けていくのだろう。