在宅ケア
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“在宅療養支援診療所”
在宅ターミナルケア加算、1万点の意味するもの?

 
月刊 GP NET (厚生科学研究所)  2006、7月号


 平成18年4月の診療報酬改定で大きなトピックとなったのが、「在宅療養支援診療所、在宅時医学管理料」の創設である。全体的な社会保障の縮小、医療費抑制の大きな流れの中にあっても、在宅医療に関する部分は比較的診療報酬が維持されてきた。今回の在宅時医学管理料の設定は、積極的に在宅医療に取り組む医療機関にとっては実質プラス改定となった。しかし、大局的にみればこれとて、社会的入院、施設入所から在宅ケアへの流れを加速し、結果としての医療、福祉費用の削減を見込んでおこなわれた厚生労働省の戦略のひとつにすぎないのかもしれないが。少なくともかなり厳しい状況の中で、病気や障害があっても住み慣れた家で住み続けたいと願う人々のために、医療保険と介護保険の挟間で在宅ケアを進めてきた医療機関にとってはこれまでの努力、苦労が認められ、やっと追い風が吹き出した、といってもいいだろう。この風がいつまで吹くのか?といった危惧があるとしても。

 今まで在宅医療をおこなって、相当数の看取りを支援してきた医療機関、診療所にとってみれば、文章にしてしまうと一見厳しく見える今回の在宅療養支援診療所の要件はまさに、今までやってきたこと、であって、新たにシステムを構築する必要などなく、社会保険庁に届け出るだけ、あるいはきっちり患者宅に文書で提供することで十分といえる。いわゆる在宅に特化した在宅専門クリニックが各地でパイオニアとして展開し、患者中心の医療?福祉の連携を視野にいれて構築してきたシステムがそのまま診療報酬に反映されたといってもいい。そういった意味ではいまだに少数の“点”としての存在ではあるが、全国各地で先駆的に在宅ケアをおこなってきたいわゆる在宅専門クリニックの果たした役割は大きい。

 しかし一方でこうした“24時間対応と連携”といった要件でしばってしまうことで、“在宅医療”を専門化、特殊化してしまい、家庭医として街のドクターが気軽にちょっと近所のお宅へ往診してみる、その延長線上に住み慣れた家での看取りがある、といった本来の在宅医療の持つ近接性、継続性をさまたげてしまうのでは?という危惧もささやかれている。ターミナルケア、緩和ケアがホスピス病棟でのみ行われる専門的なケアである、といった間違った流れと同じように。
今回の在宅療養支援診療所の設定が、一部の在宅専門クリニックにとってのみの追い風であったなら、在宅医療の広い“面”での展開は望めず、一部の“点”である在宅専門クリニックへのアクセスが可能な利用者に取ってのみのメリットでしかない。どのくらいの診療所が手を挙げ、実際に稼働してネットワークの面を広げて行くか、が今後の課題だろう。

 もう一つの論点は、利用者の自己負担である。専門家の提供するサービスがコスト高になるのは市場原理にかなっている、とはいえ、負担増は無視できない問題であろう。今までと同じサービスなのに4月からいきなり上がった自己負担、に見あうだけのサービスを在宅療養支援診療所は提供できるのか、あるいはそのコストを利用者に納得して払ってもらえるのか? コストを考えると、在宅療養支援診療所からの訪問は受けられない、最期は入院した方が安くつく?といた事態を招きかねない。
こういった在宅療養支援診療所制度の光と影について論じてみたい。


在宅療養支援診療所とは?

 [在宅療養支援診療所の要件]

  1. 保険医療機関たる診療所であること
  2. 当該診療所において、24時間連絡を受ける医師又は看護職員を配置し、その連絡先を文書で患家に提供していること
  3. 当該診療所において、又は他の保険医療機関の保険医との連携により、当該診療所を中心として、患家の求めに応じて、 24時間往診が可能な体制を確保し、往診担当医の 氏名、担当日等を文書で患家に提供していること
  4. 当該診療所において、又は他の保険医療機関、訪問看護ステーション等の看護職員との連携により、患家の求めに応じて、 当該診療所の医師の指示に基づき、24時間訪問看護の提供が可能な体制を確保し、訪問看護の担当看護職員の氏名、 担当日等を文書で患家に提供していること
  5. 当該診療所において、又は他の保険医療機関との連携により他の保険医療機関内において、 在宅療養患者の緊急入院を受け入れる体制を確保していること
  6. 医療サービスと介護サービスとの連携を担当する介護支援専門員(ケアマネジャー)等と連携していること
  7. 当該診療所における在宅看取り数を報告すること


24時間連携、ということ

 まずは在宅療養支援診療所、の要件をみてみよう。
前述のように今まで在宅医療をおこない、在宅での看取りを支援してきた診療所にとっては、今までに在宅医療を行う中で自然に構築しているシステム、といっていいだろう。それを届け出て、利用者宅にきっちり文書で提供する、ことが要件となる。
 ここでネックとなると一般に考えられるのが24時間往診、訪問看護が可能な体制、ということだろう。厳密に考えると医師か看護師、常に誰かが携帯電話を握りしめてスタンバイしなければならない、電波の届かないところへは行けない、風呂にもゆっくり入れない、酒も飲めない?ということになってしまう。しかし在宅医療を多く経験していれば容易に理解できることだが、事前の情報提供と準備がきちんとなされているならば、そういった緊急事態はそれほど多くはない。患者本人、家族で対応可能、あるいは医師、看護師の電話での対応で解決することも多く、緊急に往診、訪問看護を必要とすることは以外に少ない。
特に住み慣れた家での最期、看取りを目的とする癌末期患者では、症状、疼痛緩和ケアが十分で、本人、家族への説明も十分行われていれば、いわゆる臨終の場面に医師、看護師が緊急でかけつける必要は必ずしもない、と筆者は考えている。死ぬのに医者はいらない、いるのは死亡診断書だけ、というのは言い過ぎかもしれないが。

 休暇、学会出張など万一の緊急時に際しては同じようなコンセプトで在宅ケアをおこなっている近隣の診療所医師と相補的に連携しており、お互いの不在時などに代理での訪問診療、看取りをおこなっている。緊急時の受け入れに関しては、複数の近隣病院と日常から病診連携しており、患者の紹介、あるいは退院患者の在宅移行などで担当医師との連携があり、緊急時には受け入れが可能である。

 緊急入院に関しても住み慣れた家での最期、という着陸点が家族との間で十分理解、同意されていればそう頻繁におこることではない。むしろ脳血管障害や神経難病など良性疾患で長期療養中におこる再発作、感染症、転倒による骨折などが緊急入院の要因となることが多い。こういった場合は医師、看護師が訪問して入院の必要性を判断して適切な連携医療機関へ入院をサポートする必要がある。なにかあればいつでも入院できる、という保証があれば結果として安心して住み慣れた家に居ることができる。

患家に文書提供する、ということ

 在宅療養支援診療所の要件として、2、3、4、の項目に文書で患宅へ提供すること、という設定があげられている。当クリニックにおいても家族、ケアマネージャーやヘルパー、看護師を含む在宅ケアチームが共通で記入し患者さんの枕元に置いてある在宅ケアノートには必ず主治医である私の携帯電話、(夜間、休日はクリニックの電話から自動転送)及び担当看護師(当クリニックの訪問看護は当クリニック所属の看護師が行う)の携帯番号を記入している。何度目かの訪問診療の時、ご自宅の電話の前に家族や知人の連絡先と並んで、私や担当看護師の携帯電話の番号が大きく記されて貼られていることも多い。
当然ではあるがこういった基本的な説明責任が、要件としてあげられていることは注目に値するであろう。


在宅看取り数を報告する、ということ


 今回の診療報酬改定では、この看取り数、禁煙指導による禁煙達成率など、の報告が義務づけられている。現時点では看取り数が0である、とか禁煙達成率が低いから届け出を却下される、ということはないだろうが、将来を展望するとアメリカではすでに行われているP4P、Pay for Paformance、成功報酬を保険制度に取り入れ、成功率、達成率の高い医療機関には上乗せして報酬を支払う、という制度の伏線、であるかもしれない。在宅看取り率70%以上の診療所ではターミナルケア加算にさらに加算、とったように。しかし逆にマイナス加算、として利用される可能性もあり、今後のこういった流れには注目すべきであろう。


ターミナルケア加算1万点は高いか?

(表2)
 
1.在宅療養支援診療所の場合
 在宅時医学総合管理料 院外処方 4200
 在宅患者訪問診療料 830x4
 往診(深夜加算) 650+2300
 重症者加算  1000
 ターミナルケア加算 10000

合    計
21470


2.在宅療養支援診療所以外の場合
 在宅時医学総合管理料 院外処方 2200
 在宅患者訪問診療料 830x4
 往診(深夜加算) 650+1300
 重症者加算  1000
 ターミナルケア加算 1200
 死亡診断加算 200

合    計
9870


(表2)をみていただきたい。
訪問診療を4回うけて、最期は深夜に往診して自宅での看取りを支援した癌末期患者のケースを想定しての診療報酬の概算である。
分かりやすくするために訪問看護やその他の指導料は省いてあり、在宅末期医療総合診療料は算定していない。全く同じ業務内容であっても、在宅療養支援診療所では21470点、それ以外の診療所では9870点と倍以上のひらきがでてくる。
基本的に在宅時医学総合管理料で2000点そしてターミナルケア加算で8800点、の計10800点、がその差となる。3割負担では3万円の負担増、ということになる。筆者は住み慣れた家での有終の美を飾る、という人生最大、そして最期のイベントの支援の代償としては、その後に遺族が支払う葬祭関連の代金と比べて決して高くはない、と考える。
死亡者数の増加にともなって葬祭関連産業は成長産業で一説には2兆、3兆の年間売り上げがある、とされる。日本人が葬祭にかけるコストは欧米諸国と比べてかなり高額で、冠婚葬祭、すべてにかけるコストは人生の総収入のうちかなりの割合を占めているのでは、と推定される。もちろん休みなく24時間スタンバイして対応し、悲嘆にくれる遺族のケアもしながら故人を偲んで送り出す、という葬送関連業者の仕事はとても大変で、それなりの報酬があってしかるべきであろう。しかしそれに比べて我々医療者が、ある人が人生の最期を住み慣れた家でゆったりと過ごし、去って逝く、それをささえるために行う在宅ケアの報酬としては、1万点でも決して高すぎはしない。在宅療養支援診療所でなくても、すべてのターミナルケアに1万点加算を設定もおかしくはないだろう。死んでから、ではなく生きているうちにお金は有効に使ってこそ意味がある。


在宅時医学総合管理料は個別契約?

 在宅療養支援診療所の申請をしているクリニックが行う在宅医療が、すべて在宅時医学管理料(表2の1。)の適応となるか、というとそうでもないようだ。文章で提供していない、など要件を満たしていない場合はその他の診療所と同じ請求(表2の2。)となる。実際には在宅医療へのかかわり方のグレードで請求方法が異なってくるかもしれない。在宅ケアを行っている診療所、と一口でいってもそのかかわり方にもいろいろなパターンがある。

A.ほとんど外来診療せず、在宅専門としてハイテク在宅、神経難病、癌末期の看取りなどに特化した在宅専門クリニック(在宅専門型)

B.外来診療しながら、在宅医療にも力をいれて外部からの在宅ケア依頼も受け入れ、20?30名以上の在宅ケア患者さんを担当して看取りも積極的におこなっている診療所(外来+在宅 MIX 型)

C.外来中心で、積極的には在宅患者をとらず、自医外来通院患者さんのみ通院困難になった時に往診対応している診療所(外来専門型)

という3つのパターンにおおまかに分類でき、さまざまなグラデュエーションで在宅ケアにかかわっているといっていいだろう。
それぞれの診療所で、在宅ケアにかかわる比率を考えて、在宅時医学総合管理料1。または2。を算定すること、となるだろう。
またこのような在宅時医学管理料1。をすべての患者に対して請求できるのはA、の在宅専門クリニックの形態をとって複数の医師が所属するクリニックでの対応スタイルといえよう。
B、の外来?在宅MIX型クリニックでは 医師一人と所属看護師、あるいは訪問看護ステーションとの連携となり、すべての在宅患者に対応するのではなく、在宅療養中の特定の患者重症者や癌末期患者に対して(表2の1)を算定することになるだろう。そういった個別対応が可能となるのが今回の在宅時医学管理料の特徴でもある。


在宅療養支援診療所の行く先

 もちろん本来はこういった複雑な料金体系に関して事前の説明、在宅ケアのコストのメニューの提示と納得を利用者から得ておくことが必要となる。在宅ケアを支えるためには具体的な物、だけでなくJ地域で療養を支えるためのネットワークと情報が必要であること、そのネットワークは実際にかかわってヘルプする人間だけでなく、医療、福祉、介護のさまざまな目に見えないバックアップネットワーク資源が地域での療養を支えており、必要に応じて臨機応変に利用できること、その中心、指揮者となるのが在宅療養支援診療所の役目であることを理解してもらい、納得してコスト負担をしていだだく必要がある。
 診療所サイドも、たとえ当初は高点数、という不純?な動機でスタートした在宅医療であっても、地域のさまざまな家庭を訪れて人々の生活に密着した医療を考えていく、その結果として“できる限り住み慣れた家庭や地域で療養しながら生活を送れるよう、また身近な人に囲まれて在宅で最期を迎えることも選択できるよう”に設けられた在宅療養支援診療所の役割を果たしていくことで、地域の在宅ケアのコアとなってネットワークをひろげていければいい。そしてその存在が地域に認められて、住み慣れた家で安心して暮らすために必要な街角の灯りや携帯電話、インターネットと同じように生活に不可欠であることが認められれば、それに伴うコスト負担に関してはおのずと納得していただけるはずだ。そんな地域に認められ、支えられる在宅療養支援診療所がたくさんできるといい。

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