在宅療養支援診療所、3割が「看取りゼロ」
読売新聞10月27日の記事である。社会保険事務局に在宅療養支援診療所9777か所が報告したデーターに基づいている。平成18年7月から19年6月までの1年間で全国の9777か所の在宅療養支援診療所が看取った患者総数は27072名(21724名が自宅、5348名が特別養護老人ホーム等施設)。そして看取り数0の診療所が3168施設(32%)あるという。実際在宅ケアをおこなっていても、患者、家族の希望で最期は病院、ホスピスで、と在宅死には至らなかった、というケースもあるだろう。しかし、年間看取りが0、さらに往診、訪問診療の回数も少ない、となれば、3割の医療機関がとりあえず申請はしたものの、在宅療養支援診療所としての機能をほとんど果たしていないということには違いない。
一方で在宅療養支援診療所がかかわった在宅患者総数のうち、医療機関等以外での死亡数(自宅、特別養護老人ホーム等)が医療機関等での死亡数22354名(すなわち病院へ入院して死亡した数)を上回っており、機能している7割の支援診療所では過半数を終の住処で看取っている、ということになる。
少し考えておかなければならないのは、この統計の元となった社会保険事務局の調査「在宅療養支援診療所に係る実施状況報告書」の記載要項である。実際に記載なさった関係者はご存じだろうか、都道府県名と医療機関名のみの記入しか求められておらず(個々の医療機関が同定できない?)さらに調査内容に関してもいまいち現場ではあれ?っと首をかしげざるを得ないものであった。
平成18年7月1日から平成19年6月30日に在宅療養を担当した患者について 平均診療機関( )か月といわれても??? 数年以上在宅を継続しているケースもあれば、数日で亡くなるケースもある、その平均ってなんの意味があるの?在宅死したケースの平均在宅ケア日数ならまだわかるけど?
また、直近3か月間の訪問実施回数についての8、緊急訪問介護 これって緊急訪問看護のこと??
なんだかあまり真剣に書く気がしないような調査内容ではあった。とはいえ、在宅療養支援診療所の要件、として年1回の社会保険事務局への届け出が義務づけられているので、届け出なかった施設は在宅療養支援診療所の要件を満たしていないことになる。もちろん初年度だけでこの制度を評価するのは早すぎるかもしれない。来年度以降、在宅療養支援診療所の申請数、実動数そして看取り数はどのようになっていくのだろうか。いずれにしても実際の在宅時医学総合管理料、そして支援診療所の診療報酬の目玉となっていたはずの1万点、ターミナルケア加算(1)がどの程度算定されているのかを含めて、実際の看取り数、訪問数を開示、情報提供して利用者在宅ケアの選択時に参考資料として利用できるような方向でのしっかりした調査が求められる。
当クリニックも支援診療所を申請してはいるが、在宅患者全員に在宅時医学管理料を算定しているわけではないし、(安定している在宅患者に対しては月2回
の訪問診療が必要でない場合もある)ターミナルケア加算(1)1万点を算定したケースも看取り数の半数以下にとどまっている。ターミナルケア加算(1)の算定方法をめぐっても、“死亡前24時間以内”の解釈をめぐって現場では混乱が生じているという。
在宅療養支援診療所の在宅での看取り総数「21724」が意味するもの
在宅療養支援診療所が看取った在宅死の総数を知って予想以上の少なさに驚いたのは筆者だけではないだろう。ターミナルケア加算1万点を算定した件数、ではなく、支援診療所が看取った総数である。いったい在宅死全体のうちどのくらいを、支援診療所が看取っているのだろうか?
(以下の概算は統計の年度、期間が異なるので正確ではなくおおまかな筆者の予測であることをお断りしておく。)
厚生労働省平成17年人口動態統計によると死亡場所が自宅となっているのは132702名。そのうち在宅療養支援診療所の看取りが21724名、ということは残り80%以上の在宅死はいったい誰が看取っているのだろうか?在宅死数は死亡診断書の死亡したところの種別、1〜7での分類によるものでこの中には事故死や自殺も含まれてしまうと考えられる。
平成18年 事故死 38145、自殺 29887 のうちどれだけが自宅での死亡診断ではなく検死になっているか、がわかれば、自宅で病死または自然死した方を医師が検死ではなく死亡診断、したかがわかるはずである。もし事故死、自殺が全員自宅であったとしても(そんなことありえないが、)在宅死総数から事故死、自殺死を引いてさらに支援診療所が看取った数を引いた残り、約4万名は自宅で、在宅療養支援診療所以外の医療機関が看取って死亡診断したことになる。事故、自殺をすべて在宅死としての計算でも在宅死の2/3以上は在宅療養支援診療所以外の看取りということだ。もちろん在宅ケアを熱心に行っていても、24時間対応の文章化や、契約というスタイルを選ばす、また利用者の自己負担増を避けるためにあえて支援診療所の申請をしていない医療機関は多いし、病院からの在宅ケアでの看取りが相当数に昇ることは想像される。そのような在宅療養支援診療所以外の医療機関による看取りがおそらく4万人以上、支援診療所による看取りの最低でも2倍以上、というのはどういうことだろう?
読売新聞でも取り上げられた在宅療養支援診療所による看取り数が最低の30名という高知県、在宅死率は平成16年データーで10%と全国平均より低めだがそれでも871名、半数が自宅での事故、自殺(あり得ないが)としても400名の在宅死亡数のうち支援診療所の看取りが30名、その他で10倍以上の370名の看取りをおこなっていることになる。高知県ではただ単に在宅での看取りをおこなっている医療機関の多くが、在宅療養支援診療所の申請をしていないということなのだろうか?
在宅療養支援診療所の機能の地域差
もちろん、在宅療養支援診療所の活躍で在宅死率が上がっている、と考えられる地域もある。支援診療所数の割に在宅看取りが多い宮城県は20人以上を看取る支援診療所が6施設と多く、こういったスーパー在宅療養支援診療所の牽引力が地域での看取り数を押しあげていると考えられる。また東京など都市部での看取り率が比較的良いのも、最近増えている在宅専門診療所の活躍によるところが大きいと考えられる。
しかし、それにしても支援診療所の看取り数は全体の1/3以下である。一つの支援診療所、1人の医師が看取れる数はおのずと限られている。今後も、特に人口密集地や道路事情が良くアクセス効率が良い都市部やその近郊では複数の医師が所属する在宅専門診療所が増えて行くであろうが、(関西、特に大阪、阪神間で在宅専門クリニックが少ない理由は謎ではあるが、)このような在宅専門診療所を主とした支援診療所のシステムが全国津々浦々で展開できるとは考えられない。
看取りに在宅療養支援診療所は必須か?
現時点でもこういった支援診療所の要件を満たしていない、すなわち24時間連携等をはっきりと契約しない医療機関での看取り数の方が圧倒的に多いという点に注目したい。そこまできっちりサポートしなくてもそこそこの助けがあれば、自宅での看取りは可能ということかもしれない。極論すれば死ぬのに医者はいらない、死亡診断書があればいい、ということだろう。
診療が継続していれば、原病に関連する原因で死亡した場合は、診療から24時間以内ならあらためて死後診察しなくても(実際は死後診察しないことはありえないだろうが、)24時間以降なら死後の診察をおこなうことによって死亡診断書は書ける(医師法第20条に関する厚生省通知:昭和24年4月14日医発第385号)
「死亡したとき」は死亡確認時刻ではなく、死亡時刻を記入する(死亡診断書マニュアル:厚生労働省医政局)のだから。
医師法は看取りに関してはそれが作成された昭和20年代当時の状況からか、比較的おおらかな規制である。それと比較して今回の在宅療養支援診療所の要件が厳しいのは、診療報酬上で優遇するための条件なのだろうが、それがすべての看取りの現場では必要とされてはいないということだろうか。死に至る過程で症状コントロールや病状、死に逝く過程の説明が十分であれば、24時間の対応やという契約がなくても、家族や地域住民のサポートによって十分自宅での看取りは可能である、ということなのかもしれない。かつて多くの人の在宅死がそうであったように。