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本当のこと、を伝えますか?それとも、、?
さくらいクリニック  院長 桜井 隆

 
やすこさんが少しやつれた表情でやってきた。なんとなく自分の健康のことではなく家族に関するトラブルで悩んでおられるように見受けられたが、まさしくそのと おりだった。

「実は私の母がせきが止らないんで近所の診療所で胸の写真を撮ったらなんやおかしい、と市民病院へ紹介されて、、 肺癌、と言われたようで、、」
「それは、、大変ですね、、確か脳梗塞のお父さまの介護をなさってたんでは?」
「そうなんですよ、介護疲れでカゼでもこじらせたんやろ、、と思ってたんですが 、、病院について行った兄嫁さんが先生に呼ばれて、どうも肺癌らしいって、、」
「それでは御本人は?」
「ええ、まだ軽い肺炎、としか、、、父の介護があるから入院はいやや、と。」
「ということは御本人にははっきり知らせてないんですね」
「そうなんですよ、それで困ってしまって。実は兄はきちんと本当のことを知らせて治療を受けさせろ、というんですが、私はやっぱり癌だ、なんてとても母には言えなくて、、兄嫁さんも告知には反対で、それでいろいろと、、」

「なるほど、、なかなか大変ですね。癌の告知、だいたいこの”告知”という言葉 がどうも、、」
「というと?」
「どうして癌の時だけ”告知”という冷たい響きの言葉になるのか、、心筋梗塞や脳梗塞を告知する、、とは言わないし、、まあ本当のことを隠さずに言う、ありのままを正直に伝える、ということでしょ。ところでやすこさん自身はもし癌になっ たら伝えて欲しいですか?」
「それはもちろん、伝えて欲しいです。」

「じゃあどうしてお母さまには伝えないんですか?お母さまは知りたくない、と? 」
「いいえ、、でも母はああ見えてもけっこう神経質でそんなこと言ったらきっとショックで落ち込んでしまって、、」
「じゃあ、あなたの息子さんや娘さんももしあなたが癌になったら同じように考えて内緒にしとくかもしれませんよ。」 「それは困ります。」 「確かに真実を知ることが大変つらいこともありますが、知らないでいていろいろ不安になるよりは苦しみは少ないかもしれませんよ。知らせないでいると結局ウソ をつくことになってしまい、これがかえって家族間の信頼関係を妨げてしまうことにも、、。」
「そう言われると、、そのとおりですが、、でも実際に母に癌だ、と告げるのはとても、、」
「たしかに実際に直面なさった御家族の思いは複雑で簡単には割り切れないでしょうね。まあ癌といってもいろいろな治療法がありますし、、。」
「もう一度よく考えてみます。」

「ほんとうは皆さん、元気な時からこういった人生の大きな問題にさしかかった時に自分はどうしたいか、を御家族で話し合っておければいいんですけど。」
「なるほど、元気な時にこそこういった癌やら延命治療やらの話ができるんですよね。これを機会に息子達には私の気持ちを話しておきます。」

「癌の告知」
心筋梗塞や脳梗塞を告知する、とは誰も言わないからやっぱり癌が特別扱いされているということだ。しかし3人に1人は癌で死ぬ時代に癌だけを特別扱いにする必要がまだあるんだろうか。診断や治療法は進み、癌は決して不治の病ではない癌で人生の最後を閉じることになったとしても適切な緩和ケアを受ければ、痛みや苦しみで堪え難い最期、、といったことはほとんどあり得ない。だから こそ癌をひたすら隠しウソをつく必要もないのではと思うのだが。

真実を伝えることなしに患者さんと家族、患者さんと医療者の信頼関係は保たれるのだろうか。確 かになにも言わない、なにも聞かないそれでもわかりあえる、という関係もあるし それがうまく行く場合もあるかもしれない。しかしこれだけいろんな医学情報が溢 れる今、本人だけを情報隔離したような状態に閉じ込めておくことができるだろうか。

癌である父に真実を告げるかどうか、賛成の長男と反対の次男が診察室で言い争いを始めたことがあった。たまりかねた私は二人にこう言った。「わかりました 。もし御本人に病気について尋ねられたら私は正直に癌のことをお話しします、が 、お話したことはお父さまと私だけの秘密にして御家族には内緒にしておきます。 いいですか。」
誰のものでもない本人の命、その命にかかわる問題で本人を無視して話を進めたりしないということのように思う。

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