まちかど診療日記
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特集  胸痛ー総合診療的視点からの見直し

胸痛の原因となる諸疾患とその特徴

1)筋骨格系: 肋骨骨折、肋軟骨炎、胸肋鎖骨肥厚症、繊維筋痛症(fibromyalgia)肋間神経痛


  カレントテラピー(臨床現場で役立つ最新の治療)
2001年11月号 掲載原稿
さくらいクリニック  院長 桜井 隆

アブストラクト

 胸痛を来す疾患としては患者、医師双方とも重大な狭心症、心筋梗塞といった心疾患、肺炎や肺癌といった胸部疾患を念頭において受診、診断行為を行っていくが、実際には筋、骨格系に関連した疼痛であることも多い。もちろん放置すれば致死的となる内臓の重大疾患を除外することは大切であるが、患者の訴える原因不明の胸痛を”肋間神経痛、心臓神経症”といった安易なゴミ箱的診断をつけてことたれりとすることなく精神面でのサポートも含めた適切なアプローチを行う必要がある。
胸痛を来す筋骨格系疾患は自然治癒傾向もあり軽視されがちであるが軽微な外傷でもおこりえる肋骨骨折や肋軟骨、肋間筋の損傷、慢性疼痛をきたす繊維筋痛症、頚椎、胸椎疾患の放散 痛としての胸痛、転移性腫瘍、帯状疱疹などといった疾患や心身症のひとつとしての胸痛などを念頭において診断、治療を進めていく必要がある。

はじめに:

 胸部の疼痛を訴える場合明らかな外傷歴がある場合を除けば患者は狭心症、心筋梗塞や肺炎、肺癌などといった内臓に重大な異変があるのでは、、と心配して来院することが多い。とりあえず心肺に関連する疾患を否定され”肋間神経痛でしょう、、”と 診断をつけられてはみたものの、持続する痛みの原因が納得できずドクターショッピ ングしたあげく”心臓神経症”になってしまう、という最悪のコースをたどるケースも考えられる。
胸痛の原因となる内臓疾患を除外した上で日常診療では比較的多く見 られる胸郭を形成する筋、骨格、関節系に由来する痛みを起こす疾患を考えて対応する必要がある。たとえ原因がはっきり鑑別できなくても胸痛に対する患者の不安によ りそう姿勢が求められる。胸痛が筋骨格、関節系に由来するかどうかは胸郭、胸椎の運動によって痛みが誘発、増強されるか、触診による圧痛点などを正確にチェックす ることが基本である。

1.肋骨骨折、肋間筋損傷

 転倒や打撲といった明らかな外傷後に胸部に疼痛を来した場合には肋骨骨折の診断に苦慮することは少ないが肋骨骨折はそういった強い直達外力だけでなくかかえた荷物 や机の角、浴槽のふちなどでのちょっとした打撲、身体の捻転や前後屈、せき、くしゃみ、ゴルフのスイングといった運動、骨粗鬆症の進んだ高齢者では体位変換といったことでも安易に起こりえるため本人が受傷機転をはっきり記憶しておらず原因不明の 胸痛として訴えることも多い。
上半身を脱衣させて胸背部をしっかり診察すれば骨折部位の自発痛、深呼吸や会話といった胸郭運動、体動による肋骨に沿った痛みの増強 と肋骨局所の明らかな圧痛、こ打痛が認められる。また骨折には至らないとしても外力による肋軟骨、肋間筋の損傷は比較的多いと思われる。
外傷など直達外力による肋骨骨折の場合は骨折端は内部に向かって貫入する方向に転位するため交通外傷や転落など強い外力が加わった場合は骨折した肋骨端による胸膜 や肺実質の損傷、気胸、血胸を疑う必要があるが、(図1ーa)体動などによる骨折 の場合は肋骨のカーブの強い前、後腋窩線付近に多く骨折端は外方へ向かって開くこ とが多い(図1−b)。このため肺実質の損傷は比較的少ない。部位としては第6− 9肋骨に多く鎖骨、肩甲骨に保護される上部肋骨や浮動性の大きい下部肋骨には少な い。またゴルフスイングによる肋骨骨折は手打ちで無駄な力が入る高齢初心者の左5−7肋骨に多く見られ疲労骨折の1種と考えられる。

肋骨骨折の診断と治療

 X線撮影で骨折線が認められれば、肋骨骨折の診断は容易であるが、実際は肺陰影や他肋骨との重なりなどで明らかな骨折線を認めにくい場合も多い。また転移のない亀裂骨折の場合は骨折線とX線軸の関係ではっきり描出できないことも多い。胸部の圧痛部位をマークしてX線非透過性のクリップを張り付けて骨折部位に対してX線が接線方向に入るようにして2方向撮影する必要がある。さらに気胸、肺炎、胸膜炎など 胸部疾患の除外のために胸部正面像は撮影しておいたほうがよい。(この際肋骨のみに気を取られて肺野の観察を怠らないように留意する。筆者は外傷とは反対側に偶然ではあるがコインリージョン、肺癌を発見した経験がある。)X線写真上で骨折線がはっきりしない場合も多いがこの場合X線所見のみで肋骨骨折はない、との診断はできない。肋軟骨部の骨折は当然X線では確認不可能であるし、前述のように転移のない肋骨骨折は後日石灰化して初めてXP上で確認が可能である。
疼痛、圧痛といった 臨床症状を優先して診断する。この場合、肋骨骨折または肋軟骨骨折、肋骨不全骨折 といった診断名が適切かもしれない。当然CTスキャン、骨シンチといった検査で確定診断は可能であるが肋骨骨折の診断のためには必要ない。気胸、肺挫傷といった合併症がなければ安静、バストバンド、テーピングによる固定といった治療方針は変わ らないからである。通常2−3週間の安静、固定で自然治癒するが仕事やスポーツな どで安静を保てない場合は痛みが長引く可能性も示唆しておく必要がある。長期にわ たって痛みなどの後遺症を訴える例はまれである。

2.頚椎疾患による胸痛

 頚椎椎間板ヘルニア、頚椎の変形による頚椎症性脊髄症の根症状、放散痛として胸痛 を来すことがある。
この場合は頚部痛や上肢のしびれ、筋力低下、巧緻性低下や頚椎 前後屈による症状の悪化、放散痛などで診断が容易なことが多い。

3.胸椎疾患による胸痛

 胸椎後縦靭帯骨化症、黄色靭帯骨化症などで初期に放散痛としての胸背部痛をきたすことがあるが、下肢の痙性麻痺や神経障害で診断されることが多い。
骨粗鬆症による胸椎圧迫骨折でも圧迫によって肋間神経が障害されれば胸痛を来すこともある。また、神経鞘腫など脊椎腫瘍、転移性胸椎腫瘍、結核性脊椎炎、化膿性脊椎炎、強直性脊椎 炎 (ankylosing spondylitis)などによって胸痛を来す可能性もある。
脊椎圧迫骨折 による円背変形が強い高齢者では下部肋骨が骨盤内へ貫入するために肋骨と骨盤が接触しその部位に痛みを訴えることがある。

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