4.Tietze病、肋軟骨炎
上部肋骨軟骨の1ないし数カ所の圧痛を伴う有痛性腫脹(第2、3肋軟骨が多い)を 主訴とし肩にかけての放散痛がともない、せき、くしゃみや深呼吸など胸郭の運動によって増悪する。全身所見、検査、XPでは異常を認めない。原因は不明であるが、
胸肋靭帯へのストレス、付着部炎などが考えられている。これらの肋骨軟骨接合部の 痛みや腫脹はほとんど自己終息的であり通常の消炎鎮痛剤やブロック注射などによって軽減することが多い。こういった胸壁筋、骨格、関節疾患に合併する心、肺の疾患を見落とさない注意が必要である。
5、剣状軟骨過敏症(hypersennsitive xiphoid)
「胃癌で亡くなった友人の葬儀に出席した夜、たまたま自分の腹部を触ってみると上腹部中央に固いものを触れて、心配で眠れなくなって、、」といった訴えがプライマリケアの現場では時折見られる。通常の剣状突起の下端が触れるだけであるが、圧迫
によって痛みが増すために患者は不安がることが多い。
6、胸肋鎖骨肥厚症(sterunocostoclavicular hyperostosisi)
掌蹠膿疱症(pustulosis palmaris et plantaris)が高率に合併することによって知ら れているが、原因ははっきりしておらす慢性関節リウマチなどのように免疫異常やウ
イルス感染の関与が疑われている。
胸肋鎖部位の有痛性腫脹をみたら手掌をチェック し(あまりかゆみをともなわないため患者が気づいていないこともある)膿疱性皮疹 が認められれば診断はほぼ確定する。肋鎖靭帯の付着部炎(enthesopathy)が基礎に存在し、胸肋鎖関節に圧痛を伴う有通性の腫脹をきたし、進行すると肩関節の運動に伴って回旋する鎖骨の可動性が失われるため肩関節の可動域制限がおこることがある。
軽度の炎症反応(CRP陽性)を示しXPでは鎖骨近位端の硬化像、肥厚、肋軟骨や肋鎖靭帯に骨化像を示す。CT、骨シンチで骨化の進行度を評価できる。通常の消炎
鎮痛剤で軽快することが多いが、なかに再発を繰り返す難治性のものもある。機序は はっきりしないが抗生物質(エリスロマイシン)などが効果的な例もある。
7、肋間神経痛
一般には安易に使われる言葉ではあるが、厳密な意味での肋間神経痛の診断は難しい。 いわゆる末梢神経の絞扼障害としての肋間神経の障害は肋骨骨折など外傷、脊髄損傷や胸部手術後の肋間神経障害や胸椎の腫瘍(神経鞘腫、髄膜腫、転移性腫瘍)などがある。
実際に物理的圧迫による神経障害が多い三叉神経痛や坐骨神経痛などに比べる とその頻度は少ないと考えられる。原因不明の胸痛を肋間神経痛とするごみ箱的病名
として使用されている傾向にある。安易な使用はつつしみたいが実際には肋間神経支 配領域に放散し数分間の発作的痛みがあって無症状の時期もあり疼痛を誘発する圧痛
点もあって、、という”肋間神経痛”としかいいようのない痛みを訴えるケースがあることも事実である。なんらかの拘扼性の神経障害が一時的におこっている可能性は
否定できない。他の疾患を除外して患者の不安を軽減することが大事である。
8、繊維筋痛症(Fibromyalgia Syndrome FMS)
日本では疾患の存在自体があまり認識されていないため患者は精神疾患や詐病を疑われ「心因性リウマチ」「原因不明の慢性疼痛」などという診断をされてしまうケース
も見られる。
ACR(American College of Rheumatology) のFMSの診断基準では 3カ月以上、広範囲にわたる疼痛の病歴と図(2)に示されるような部位の多数の圧痛点18個のうち11カ所に疼痛を認めることとされている。疼痛とこわばり、睡眠
障害、全身疲労のため日常生活が妨げられることが多い。患者は慢性に続く疼痛とその原因、診断がつかず治療の見通しがたたないことなどでうつ状態となっていること
が多い。
圧痛点は胸部では下位頚部第5−7頚椎の横突起の前面、胸鎖関節、第2肋 軟骨接合部などに多いが、僧帽筋を中心とした後頭部から肩甲骨にかけての背部の痛
みを強く訴える。疼痛やこわばりは長期にわたって持続するがその程度は天候やストレスなどさまざまな因子によって悪化する。
また過敏性腸症候群、緊張性頭痛、上肢の感覚異常などもを合わせて訴えることも多い。XP検査、血液検査では特に異常を 認めない。
もちろんRAその他の膠原病や慢性疲労症候群などとの鑑別や合併には留意すべきで ある。治療はまずFMSという病気が存在すること、精神障害ではないこと、関節変
形や致死的となることはなく慢性化するが適切な治療(消炎鎮痛剤、ステロイド剤、 局所ブロック、睡眠剤、抗うつ剤、カウンセリング、リハビリ等)によって軽快することを説明する。FMSという診断がついて病気であるということが認められるだけで患者が安心することも少なくない。筆者はインターネットで検索して自らの状態を
FMSでは?と診断して受診したある患者からFMSについて詳しく教わった経験が ある。
9、帯状疱疹
胸部の痛みで見落としてはならないのが帯状疱疹による肋間神経痛である。水疱発生の2−3日前から神経にそったぴりぴりする痛みがおこり(洋服がこすれると痛いと
いうのが特徴)湿疹、水疱の発生は遅れるので患者に必ず局所の観察と帯状疱疹の可能性を示唆しておく必要がある。
10、心身症としての胸痛
内臓疾患や以上のような筋骨格系疾患を除外してもまだ原因不明の胸痛や胸部不快感を訴える患者は実際には多い。ストレスや不安など心身症の表現としての胸痛に対しても安易に肋間神経痛、心臓神経症などという病名をつけて無理やり患者を納得させ
ようとするのではなくその背景に隠された原因についてのアプローチを継続していく姿勢が望まれる。
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