まちかど診療日記
| HOME | クリニックのご案内 | お知らせ | 診療日記 | 在宅ケア | リンク | サイトマップ|



インタビュー ’98
医療'98 VOL.14 (1998.3)より
      発言者:さくらいクリニック   院長:桜井 隆

  医療の不確実性とインフォームドコンセン卜

−桜井さんは、尼崎市のべッドタウンに開業して以来、積極的に薬や診療情報の開示を行ってきています。医療現場において、情報の開示はどうして必要なのでしよう。

 僕は、世の中のさまざまなサ−ビス提供者がお客さんに対して普通にすることを、医療というサービスを提供する枠組みの中でもできる限りしたいと思っています。医療サービスも、サービス提供者が受け手である患者さんに正しい情報を伝え、内容を納得してもらった上で行うほうがいいということです。
 これまで日本の医療現場は、良くも悪くも医者のパターナリズムが支配してきました。そのパターナリズムは、医者だけでなく、ある面では患者さんにも支えられてきたわけです。

 たとえば、患者さんは医者に対して、すぐ確定診断名を求める。医者のほうも多分に見栄もあるから、たとえ絶対的な自信がなくても初診で「あなたは○○病です」と病名を断言する。医者を弁護する立場で言うと、確かにその場面には断言せざるを得ないムードも何となくある。でも、医学的に言えば、患者さんの状態をみたり訴えを聞くだけで、いつでもすぐに確定診断ができるわけではありません。なのに、それをしている。普通に考えたら変な話しが、医療の現場では当たり前のことのようになっている。

 医者はもっと患者さんに対して正直にものを言ったほうがいいと思います。少なくとも患者さんをごまかすようなことはしないほうがいい。ごまかしていては、患者さんに医療サービスを納得して受けてもらうことはできません。
 だから僕は、初診の患者さんで必ずしも確定診断がつかない場合には、そのことを正直に患者さんに言っています。そして、それはどうしてなのかということも伝えます。

 たとえぱ、「いま僕はあなたの病名を一つに断定できません。それには二つの理由があります。ひとつは現代の医学の不確実性の問題です。もうひとつは、申し訳ないけど僕自身の能力の問題で、(たとえば腹部については専門家ではないので)この程度しかわからないのです」と正直に言います。これは、別にかっこつけて言っているわけではなく、本当のことだからごまかしてもしょうがないと思っているからです。
 一般的に、患者さんは医者は患者をみればすぐに病名がわかってそれに対する治療もひとつに決まると思っているところがあります。ですから、まず現代の医学でできることはどの程度なのかということ、複数の対処法があっていつでも必ずべストが決まるものではないこと、そして、僕ができることの範囲を説明しておく必要があると思うのです。

 現在疑わしい病気については、それは何で、僕がどういう根拠でそう考えているかについても伝えます。時には、医学の専門書を患者さんの前で見ながら考えたり説明をします。そして「僕のところでできる検査はこのくらいで、より慎重を期するなら、他の医療機関でこういう検査を受けたほうがいいかもしれませんが、どうしましょうか。必要なら専門家に紹介しますよ」とも伝えます。

 

誠実な情報提供はお互いの信頼関係を深める

−それは正直ではあるけれど、患者から先生は何もわからないんじゃないかと言われませんか。

 僕も最初はそれを心配しましたが、それはありませんでしたね。患者さんの前で医学書を見ても、それで「この先生はあかん。ここはやめとこ」と不信をもたれたことはまずないですね。実感としては、逆にそうしてでも、ちゃんと説明することで理解と信頼が深まることのほうが多いように思います。
 僕は、特に問題がない場合、治療法も患者さんに選んでもらいます。治療法も一定の範囲であれぱ、患者さん本人に選んで決めてもらったほうがいいものがあります。だったら、それを医者だけで決める必要はない。僕は基本的には、レストランで食事をするときに、店の人が勝手にメニューを選んで食事を運んでくるのではなく、お客さんがメニューを選ぷことが当然のように、治療法などの医療サービスについても、できる範囲であれぱ患者さんがメニューを選んでいいと思うのです。

−患者は自分で選べますか。

 確かに高齢の方はどうしますかと聞いても、「これがええな」と言うような人はまだ少ないですが、若い人はそうでもありませんよ。「自分で決めていいのなら、一度注射してもらおか」などと決めますよ。ただ、全般的には、いろいろ説明した上でも「どの治療法にしますか」と聞かれること自体に多少の戸惑いや驚きがあるようです。一番多い反応が「こんなん、選んでいいんですか」です(笑)。

−選ぶということは責任をもつということでもあリます。患者さんはそのあたりをどう意識しているのでしよう。

 選んだからには責任もあるというように、患者さんは特に意識していないと思います。でも、それはしょうがないことですよ。今まではお任せ医療が当たり前だったわけですから、今は「あなたが選んでいいんですよ」と、選択権はあなたにもあるんだといことを提示する段階だと思いますね。
 功罪がどうであれ、患者さんは今まで医者のパターナリズムによる医療を受けてきたわけです。それを、これからはあなたが選ぴなさい、責任もとりなさいと急に医者が態度を変えても相手は対応できませんよ。それに僕は、「あなたが決めたんだから」という姿勢を医者がとるのは正しくないと思います。そうではなくて、「あなたが選んだけれど、一緒に相談して決めた治療法なんだから、それに参加した僕にも半分責任がある。悪くなったらまた考えていきましょう」という姿勢が必要だと思います。

−ちゃんと説明すると、他の医師と話が違うじゃないかというケ−スはあリませんか。

 僕の説明とは違った情報が渡されているケースはありますね。ただ、前のお医者さんの説明をいきなり否定することもメリットのあることではありませんから、そういうときには、「僕はこう思うけれど、どうやろかねえ」とじんわり話をもっていくようにしています。ただ、僕がこういうスタンスで患者さんに接している方法について、他の先生から文句を言われたことは、ありません。

| INDEX | NEXT |

TOP


Copyright (C) : 1998-2010 SAKURAI CLINIC. All rights reserved.