まちかど診療日記
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家庭の風味にあわせたケアを

神戸新聞掲載第24回 5月17日 より
さくらいクリニック 院長 桜井 隆

家庭の風味にあわせたケアを

 誰かが病気で入院や長期の療養が必要となった時、本人だけでなく家族も大きな危機に直面します。本人の病気を心配するのはもちろんですが、場合によってはそれ以上に自分達の生活が脅かされます。お父さんが突然入院、このまま働けなくなってしまったら、どうやって暮らしていくの、ああもっと保険金かけとくんだった?
お母 さんが明日入院、食事は、洗濯は、子供の面倒は?ところで通帳と印鑑はどこ?なんてことに。
地震と同じで普段から準備しておくのはむずかしいですよね。

 そういう時に家族がみせる対応はそれぞれにさまざまです。つらいのは病気になった本人なのですが、家族にとっても看病は大変だし、家庭の維持もこれまた大変、お世話になる医師や看護師にも気を使うし、疲れてくるとどうしても感情的になって、長年鬱積した家庭内の問題が噴出したりします。

 仕事を休んで介護に専念する献身的な御主人、あるいはちょっと冷たい距離を感じる奥さん。医療の現場で家族が見せるいろんな横顔、でもそれだけで批評するのはあまりに一方的です。献身的な御主人は今まで家族をほっておいた罪滅ぼしかもしれませんし、冷たい印象の奥さん、実は離婚寸前に御主人が発病、離婚をキャンセルして介護なさっているのかもしれません。

 往診、訪問看護といった在宅ケアの現場では家庭の中にさらに一歩踏み込むことになります。我々が外部から垣間見て、医療業界の常識に照らして判断するのは簡単ですが、ちょっと違う、と思う状況も、その家族の数十年の歴史の中ではあたりまえのことかもしれません。社会構成の最少単位である家族は、いうなれば普段は外部と遮断された一つの小宇宙。そこではある意味でどんなことでも起こり得ます。あなたの家庭でもよそから見れば、あれっ、というようなこと、たぶんありますよね、それがその家庭の風味、なんだと思います。在宅ケアの現場で我々援助者はその味を変えよう とするのではなく、一緒に味わうことでしか支援できない、そんなことも多いように思います。

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