まちかど診療日記
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寄り添う、とは言うけれど、、、

神戸新聞掲載第29回 8月2日 より
さくらいクリニック 院長 桜井 隆

 「血圧が少し下がってますね。」わざと御本人にも聞こえるように大きな声で告げた私に、Jさんの奥さんは、人さし指を力いっぱい尖らせた唇に当てて涙を溜めた瞳で訴えました。(よけいなことは言わないで、。)

店鋪と兼用のその御自宅、2階の居室への急な階段を登れなくなった老夫婦が店の奥の四畳半の台所だけで暮らすようになってからもう数年。医者にかからないのを長生きの秘訣、となさっていた御主人が倒れたのは2ヶ月前。そのときすでに残された時間は限られていました。このスペースでどうやって寝たきりの御主人のケアを?との心配をよそに御自身も手足が不自由な奥様にとってはすべてが手の届く範囲にあるその台所はとっても合理的な空間、もちろんお店も毎日営業。入れ代わりやってくる近所のおばちゃん達の手厚いお手伝いには、介護保険も色あせてしまうほど。

「でもやっぱりある程度本当のことを伝えた方が、、残り時間は限られているという、 、」
「そんなことわかっとるわ、でもがんばって欲しい、私に苦労をかけたくないから、もう死にたい、なんていうから、、」
「ですからこれ以上、がんばれ、、というのはちょっと酷では、、」
「先生がもうええ、、なんていうたらほんまにあの人は逝ってしまう、、うそでもええから、大丈夫や、がんばれ、、と言うたって、、」
「でも、、、」
「でももへちまもない、、お願いやから、、」
奥さんのためにもう少しだけがんばりましょう、、と帰り際に御主人に声をかけました。もう少しだけ、と敢えて付け加えて。

奥さんはすべてをわかって、でも御主人の側に少しでも長く居たい、面倒をみたい、 という憶いで寄り添っておられる。それに引き換え本当のことを伝えることが正しい、という医療サイドの理論を押し付けようとしている私は所詮、第三者でしかあり得ません。

寄り添う医療とか傾聴とか口では言いながら、いったい私のしていることはなんなんだろう。こんなことを繰り返しながら、いつか少しでも奥さんの気持ちを見つめることができるようになるのだろうか、と自問自答していました。お店に貼られた宇宙人のようなスーパーアイドルのポスターがそんな私を笑っているかのようでした。

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