まちかど診療日記
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救命処置の光と影

神戸新聞掲載第32回 9月27日 より
さくらいクリニック 院長 桜井 隆

「父の様子がおかしいんです、すぐに来てください。」と肝臓癌末期のAさんの娘さ んに呼ばれて明け方に御自宅に駆け付けた時、すでに息を引き取られて冷たくなりか けていたAさんの亡きがらの胸のあたりを一生懸命手でさすっておられた娘さんが、 実は”心臓マッサージ”をしておられた、と気づいたのはしばらくたってからでした。

本来の心臓マッサージ(両腕で体重をかけて胸部を圧迫して心臓から血液を送りだす) からはほど遠いものでしたが、お父様にとってはその方が良かたようにも思われます。 医療行為に対する我々医療者と一般の方の認識の違いを思い知った出来事でした。

 9月は救急月間、突然の生命の危機にさらされた人に対する救命救急処置の講演会 があちこちで行われています。日本は一般人で救命救急処置ができる方が少なく、救 急車がかけつけるまでのわずかな時間に適切な処置ができないため救命できる方がま だまだ少ないのが現状です。

しかしすべての場合で、気道確保や、心臓マッサージという救命処置が必要なわけで はありません。もう延命の可能性の少ない老衰や、癌末期の人の場合などがそうです。 でもひとたび救急車を呼んでしまうと、救命処置のレールに乗ってしまいます。要請 を受けた救急隊員や運ばれた先の救急室の医療スタッフはできる限りの救命処置をせ ざるを得ないからです。

TVの取材やドラマなどでは、そういった救命処置で助かるケースが多く報道されま す。でも実際は一度心臓停止してしまった方を蘇生するのは至難のわざです。救命処 置、心肺蘇生術は決してすべてを生き返らせる魔法の手技ではありません。

自分が不治の病で死が迫っているとき、そのような延命処置をしないで欲しい、とい う意志表示を事前にしておくことができます。しかし御自身の決定だけを優先すると、 少しでも長い生きして欲しいと願う御家族の気持ちと相反する場合もあり、なかなか むづかしい問題です。すべての医療行為がどんな状況でも有効とは限りません、その 内容と限界を知った上で、自分だったらどうして欲しいか、ということを考えて家族 と話しあっておくのもよい機会だと思います。

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