癌などの痛みの治療に使われるモルヒネが日本では今だに欧米の1/7程度しか使われていない、ということを皆さん御存じでしたか?
不思議なことにこのモルヒネの使用量が日本国内でもかなり地域差があるのです。県別の人口当りのモルヒネ使用量を見ると、概して東高、西低です。特に関西地方が低いのが目立ちます。関西人はがまん強い?とはとても思えませんがなぜなのでしょうか?
日本で癌性疼痛に対してのモルヒネの使用量が先進国中最低なのは、医者にも、一般人にもまだまだモルヒネに対する誤解、危険な麻薬で習慣性があって使うと命を縮める、という誤った認識があるせいだとされています。癌の疼痛コントロールに関してはWHO(世界保健機構)のガイドラインがありそれに添って、時刻を決めて、効力の順に痛みに応じて段階的に、患者ごとの個別の量を適切に使用すれば安全に癌末期の痛みを緩和することができます。
モルヒネを使う時、私は患者さんに次のように説明します。「小学校の時の理科の実験で、リトマス試験紙というのがありましたよね、酸性なら赤、アルカリ性なら青。たとえば酸性を癌の痛みとすれば、モルヒネはそれを中和するアルカリ。ちょうど中和されて透明な状態が痛みもない安定した状態です。痛み、酸性が強ければアルカリのモルヒネを増やして中和する。そういった状態と考えてください。」
もちろん吐き気や便秘、眠気といったモルヒネの副作用への対策も忘れてはなりません。これをきちんとしないと副作用のためにモルヒネが使えなくなってしまいます。さらにモルヒネが効きにくい痛みもあります。神経に癌が直接浸潤しておこる痛みなどです。これにはさまざまな鎮痛補助薬が使われます。適切な緩和ケアが行われれば、癌末期の痛みはほとんどコントロールできるといっていいでしょう。
最近は座薬や貼り薬、飲みやすい液体の薬もあって在宅でも癌末期の痛みのコントロールは十分可能です。もちろん患者さんの痛みにはこういった薬では対応できない、心の痛みというものがあることを忘れてはなりません。御本人や御家族などまわりの方がよけいなことを気にしないで、こういった心の痛みにしっかり向き合えるような環境をつくるのが我々医療者の役割だと思っています。
(1)「痛み止めの薬」のやさしい知識
財団法人がん研究財団発行 03ー3543ー0332
(2)「がんの痛みはとることができます がんの痛みをおそれているあなたへ
山形大学医学部 麻酔科 加藤佳子
JPAPペイン情報センター 03ー3457ー0314
参考図書
がんの痛みからの解放とパリアティブ・ケア 武田文和 訳 金原出版
がんに痛みを救おう! 「WHOがん疼痛救済プログラムとともに」 武田 文和 医学書院
誰でもできる緩和医療 総合診療ブックス 武田 文和 医学書院
がん疼痛治療のレシピ 的場 元弘 春秋社