● 日本医大病院・顎関節手術後急死事件について ●



日本医科大学事件資料
   
埼玉脳神経外科病院

 外来カルテと入院診療請求書、レントゲンフィルムが提示された。 入院カルテは提示されていないが、この病院で行なわれた診療レベルからしてそもそも入院カルテを作成していたのか否かが疑わしい。(3年を経過したので廃棄したとのことであるが、そういうルールになっているのだろうか)
   
診断: 1. 背部腹部打撲・擦過傷・顔面打撲擦過傷(全身打撲を2本線で消している)
2. 右鎖骨骨折・下顎骨骨折
3. 左第6.7肋骨骨折
4. 臀部打撲・左肩打撲
5. 胸部打撲・擦過傷・末梢神経障害
6. 症侯性神経痛
来院時間: 平成9年12月8日 深夜 11:17 PM
病状: 20時頃土手を自転車で走っていて転倒
右肩打撲・背部・腰部等擦過傷 前歯1本折れた

骨折:
 右下顎骨
 右鎖骨
骨折・擦過傷部位
 胸部・右肩・胸椎・左肋骨・骨盤・下顎骨
 右顎関節・左顎関節・右鎖骨
上記CTの記載なし


表1

診療工程設計

 
<工程>
<必須作業項目>
Step1 患者受診(紹介) 紹介状
Step2 情報収集 カルテに病歴記載と診察
Step3 問題点抽出 鑑別診断、病態生理解析、コンサルテーション
Step4 系統的検索 諸検査、IC提示(侵襲的検査)
Step5 方針決定 確定診断、治療法選択、EBM、IC
Step6 評価 CC
Step7 患者退院・転院 紹介状、サマリー
Step8 総合的フィードバック評価 上級者オーディット、CPC、DC

註) IC:INFORMED CONSENT
DC:DEATH CASE CONFERENCE
CPC:CLINICAL−PATHOLOGICAL CONFERENCE
EBM:EVIDENCE BASED MEDICINE

診療工程の2,3段階の「病歴・診察」と「鑑別診断と病態生理解析」の段階で、全身打撲=多発外傷(下顎骨・右鎖骨・左第5,6肋骨骨折は頭部・胸・背の強打を示す、臀部・腰部の擦過傷は同部の外傷を意味する)患者としての認識が欠如しており、結果として全身管理と外傷性SIRSの発生を予想することが出来なかった。
1. 頭部も含めた外傷で、下顎骨の骨折を見たにもかかわらず、脳の検索を行っていないことは救急診療として杜撰である。
2. 血液検査では、白血球12,700、GOT 134、GPT 56、LDH 828、CPK 5826という多発外傷後の「広範囲骨格筋損傷の存在を意味し、時を経ずしてミオグロビン血症→同尿症→SIRS→腎不全、DICの発症を強く示唆していた」にもかかわらず、「無視」(無知の故か)したことがその後の悲惨な病状経過を余儀なくしていた。CPKの値が5000を越えていることからして、ミオグロビンもまた恐らく5000以上という高値を示していたと推測しうる。日本医大での採血結果では、受傷後4日でもCPK値は2907、受傷後7日でミオグロビンは1414であり、 埼玉脳外科病院でも検索しておれば異常高値を得ていたことは間違いがない。このことは尿酸値の高値などとあわせて最早この四日間で早くも腎機能の低下が始まっていたと考える。   クレアチニン、BUNの上昇は腎機能障害が進み、排泄能力が半分以下に低下するまでは異常値を示さない。逆にいうと、これらの上昇は腎機能が重度障害に陥っておりことを示している。
3. 充分なる全身的検索と管理の必要性に思いを致さず、患者が比較的元気であるという事から、「下顎骨骨折」にのみ焦点を当てたことはこの病院の医師は救急診療のイロハについて再教育を受ける必要があることを意味している。でなければ同様の「木を見て森を見ない」断片的、一面的救急診療を繰り返すことになる。少なくとも入院時はカルテを書かなければならないという原則も訓練しなおすことが望ましい。

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