「医療の提供体制の抜本改革への提言」



−地域医療システムの再構築−
 こういう教育システムを土台にした上で、現在の日本における病院・診療所の体系を、是正する必要がある。それには、人口を母体とした1次圏・2次圏という分け方とは別の、大都市近郊、地方都市、人ロ密度、高齢者比率等、その地域の機能性を含めた医療需要というものを、評価し直す必要がある。その医療需要に見合った形での施設数等の必要度を算出し、過剰である場合には、べッド数も含めて縮少していく必要があるし、足らないところについてはグループ化をはかってでも保障するようなシステムをとるべきである。この様な医療需要をもう一度見直すという作業をしない限りは、結局、現在まで全く無節操・無秩序に、白由開業制の下に行われてきた地域医療の提供体制は、根本的には変わらない。これが早急に迫られている施策の1つてある。ついで機能分化が必要となる。

その第一に公立医療機関の機能の再検討がある。経済的には80%以上が破綻しているが、その地域の医療需要にもそぐわないものが予想以上に多い。公立機関の目的は広義の“政策医療”であるとすれば、癌・循環器・難病センターなどの先進医療、伝染病対応のみでなく社会的弱者ヘの対処も必須である。とくに大都市近郊では公立機関は決して弱者の味方にはなっていないことが多い。この点は強く反省し、その使命を再確認すべきであろう。病院の側からみると、開放型病院がクロ−ズアップされる。当然の事として医療機能評価機構の病院機能評価を受け、あるレベル以上の運営システム・診療システムを持った病院を開放型病院として、再構築する必要がある。その開放型病院は、決して総合型の急性期型の病院だけではなく、リハビリテーション病院、終未期型・ホスピスケアを必要とするような形の施設も含めたものである。こういう受け皿ができれば、診療所の医師群も登録医としての義務・権利を定めて、共同診療を行うことも可能となる。必然的に自ら標榜する科目も含めて再度考え直さなければ、同じ士俵に登れないことになる。

現実に我々が開放型を行っていて、共同診療が行われにくい要因の1つが、診療所の医師群の本当の標榜科が何であるのかということか判然としないことである。例えば外科医が内科医として開業し、心筋梗塞の患者を入院させた場合、それを心臓センタ一の医師と同じ土俵で、日常的に診療方針をデイスカッションできるとは考えられない。従って、もう一度標榜科目についての厳しい検討が必要である。この機能分化に対しては、病院・診療所いづれについても経済的保障、技術・知的な評価を加えることによって、それを保障する必要がある。

−情報公開−
 次いで、医療情報の公開の義務化と、そういうものを取りまとめる役割を医師会等が担わなければならない。それには病院の側としては、個々の専門医群の診療能力・実績を含めて報告する義務を負うと共に、開放型病院で同等の診療を行う医師についても、その診療実績については公表する必要がある。病歴については、日本の診療所・病院の9割以上は非常に貧しい病歴管理体制になっている。

病歴自体は保険医療下で、その請求事務の簡便化のための工夫に力が注がれてきた一方、医学的な質は低いレベルに放置されてきたきらいがある。施設によっては5年でそれを放棄している所もある。病歴は永久保存が当然であって、しかも質を持った病歴管理というものを病院・診療所等で行わなければならない。そのことが電子カルテ導入も含めて将来的には更に統一化されるとしても、現在では、やはりカルテというものを通じて行わなければならないので、佐賀医大等を参考にして一定の指針を出すべきであろう。その努力こそ、医師会が自らの手でリードすべきことであり、厚生省等に委ねるものではない。この努力一つ出来ずして“より良質な医療を提供しようとしている”等と主張するのは笑止である。

−グループ診療−
 診療所レベルで最も重要になるのは、グル一プ診療の導入である。グループ診療というのは、決して1つの施設で多数の人間が行うという形だけではなく、現在の診療所がいくつか協力し、共通した情報の持ち方、診療の仕方を行うことによりグル一プ化が図れる。このことにより開放型病院をより有効に利用し、生涯教育をより質の高いものにし、医師個々の福利厚生も改善することになる。情報公開に合せて良質な相互批判が可能であり、医療が客観的にも改善されることになる。ここにも医師会の果せる役割がある。
 医師会の理事職が率先して範を垂れられてはいかがなものか。


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