「医療の提供体制の抜本改革への提言」



−国家レベルでの組織的怠慢を是正する−

 我々は少なくとも、大前提として国家における30数年間に亘る“怠慢”を是正するために、次のことを、まず、提案したいと思う。すなわち、米国のJCAHOに見習って、日本において医療・保健・福祉の全ての組織、施設の許認可、および継続的な評価を行う機構を、現在の医療機能評価機構を更に発展させるような形で第3者磯関として持つべきであろう。それにある程度の法的権限を持たせ、反復・継続して質の評価を行うことが重要な業務となる。その機構が諸組織・施設に求める基本的義務は、次の4つの大項目によって規定される。

 @安全かつ最適な施設、器材環境・組織方針の整備をすること。
 A一定の評価に耐え得る医師・医療従事者・専門家の確保と
  その継続的な供給体制を作ること。
 B施設内で保健・医療・福祉に関わる全ての従事者の資格等を
  含めた監督を行い、国家的にそれを保障する。
 C良質な保健・医療・福祉を提供するための、適切な基本指針・
  基準を国家レべルで決定する。
 この4つの基本にもとづき、更に細部に亘る検討事項を定め、個々の施設.組織の改善を求めて、その対策をたてるように指導することになる。
 このことが、既存の官僚を中心とした厚生省の1部局で果し得るようなものでないということは、過去の歴史が物語っていることである。

−教育の改編−
 その大前提の下に、まず行われなければならないのは、医師をはじめとする医療従事者を生み出している教育の在り方である。医科系大学の責務は、研究と臨床医学の教育である。この2つの責務を果すべき現在の医局講座制を母体とするシステムは、学問的にも人的構成も含めて不適なものであることは、30年前に結論づけられていることである。従って、京都大学の大学院大学構想もあるが、大学の研究部門を、都道府県レべルで一定統合して、より質の高いものを十分なる経済的なバックアップの下に、担えるようなシステムに改編しなければならない。現在の如く、個々の大学の個々の医局に任すような形では、大きな無駄を反復し、研究成果としても不十分なものである。ましてや臨床医学に関しては、半分臨床医で、半分研究医という指導者に学生時代から関わっている限り、十分なる臨床トレ一ニングというものが不可能であることはRUBECKの指摘を待つまでもなく実感していることである。特に第一線診療における鑑別診断を含めた初期診療、日本的2次・3次的臨床医療・在宅ケア−も含めた慢性期医療を、日常的に修練するチャンスはない。

 従って、大学教育の5年生・6年生の間にそれを着実にマスタ一することは、現在では不可能である。この点では米国で行われているようなクラ一クシップ制を採用し、初期2年間において講義・実験を中心とした教育は全て終了し、5年生・6年生の段階では完全に一般病院・大学病院において、患者を中心とした臨床医学の単位取得に変えるような教育システムを採用する必要がある。医師国家試験については、現在のような米国の国家試験をミニチュア化したものではなく、同程度のつまり1日500題を越えるような3日間に亘る広汎な国家試験を行う必要がある。そうなれば予備校的教育をすることは不可能で、大学教育全般からマスタ一されるものとなる。更に卒後研修として、過去30年に亘り培われてきた米国におけるレジデント制(研修システム)というものを参考にして、日本版レジテント制をひく必要がある。

  そのための教育スタッフの再教育も必須となる。専門医については、総合家庭医・個々の専門医を、学会において厳重なる監視の下にその育成過程を作り、修練施設を決定して、専門医制の確立を期間をおいて制定する。医師免許更新制を5年ごとに施行することによって、卒後研修の義務化をはかっていくことも必須事項である。またより効率的、良質な学会活動も必要であるから、現在ある学会を統廃合してそれなりに権威のあるものに形成し直す。
 これらの施策のためには、医師自身の自律的な指導性が必須であるが、既存の医師組職にその能力がないとすれば、平成医療改革は経済改革のみに終始することになる。

[具体案1]
1.大学教育
 入試選別−2〜4年の大学カリキュラムを経て入試
 4年制 −2年間、基本的臨床教育及び臨床に必要な基礎知識の議義はトピックス
      のみにて、実習を加える
     −2年間、単位取得可能病院を選択し、自ら研修計画を作成し、実施
医局議座制−筑波方式を参考に臨床医学群による再編
      複数教授・講師による構成
     −研究部門はテーマ毎に再編
     −大学院大学⇔研究大学の都道府県単位での新設
2.医師国家試験
基礎医学知識 500〜600題 
臨床 〃   500〜600題  3日間
診療形成   150〜20O題
資格試験のため、各年毎の基準査定ラインを設定
3.卒後教育
5年内の医師免許更新制
生涯教育の単位制導入
 必須
 選択


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