「21世紀の八尾市の医療」

医療法人医真会
 理事長 森 功



 はじめに

 神奈川県警の不祥事についての朝日新聞、天声人語の記述に以下のような文章が目に付きました。高際弘夫・愛知学院大学教授著の「日本人にとって和とは何か」(白桃書房)の本旨を紹介しています。
―日本人が集団を構成するとき、どこでも常に「和」が唱えられる。大臣、医師会長、ヤクザの親分・・・など、皆同様である。その結果、ひとは互いに甘えあい、血族のような気になり、あらゆることに和が優先する。集団の外のことには無関心になる。「反省をすることを止め、倫理を忘れ、自制心を失う危険」が常にある。―

医師会もこのような隘路に陥っていないであろうかという反省が必要ではないでしょうか。 21世紀を前にして、医療のビッグバンが語られ、介護との分離、DRG等の管理医療の導入、情報開示等々、新しい手法が多岐に亘って企画されています。私達は「医療のビッグバンとは評価にかなう品質保証、健全な経営、効率の良い危機管理が保証された医療を計画・実践すること」と考えています。このHPにお立ち寄りの皆様に、私たちが考える地域医療に関する指針を提案し、ミレニアムを迎えるにあたり、皆様の活発なご検討を期待いたす次第です。

戦後55年の日本近代医療の特徴

まず21世紀を語る前にその土台となる第二次世界大戦後55年の医療を検証しなければ具体策が生まれません。その特徴は以下の通りと考えます。

  1. 昭和30年に完成した国民皆保険制度による「いつでも、どこでも、だれでも」が自 ら必要と思う医療サービスを受ける権利が保障された=Free Accessの保証
  2. GHQ サムス准将の意図した「医薬分業法」は彼の帰国後、「分業しないことを保障する分業法」として施行され、以後、差益依存体質とそれによる安易な高額所得医師群を産み出した=薬・検査漬け医療の醸成
  3. 患者側から見た「医療の質」の評価はなされず、ハード・マンパワー・ソフトの全面 的低医療費政策と"患者に我慢を強いる"医療の継続=品質保証、アメニティ無視医療
  4. 高度成長期に支えられた医療経済体制と政治による無駄遣い=老人医療費免除など
  5. 医学の進歩と見合わない「医科大学体制=医局講座制・医学博士濫造・臨床人事権 支配」の現在までの堅持=ガイドライン・標準化・EBM・地域医療重視体質の未発達
  6. 医療の品質保証・リスクマネージメントの欠如=医療過誤の多発と原因の幼稚性
  7. 自由標榜性による自由開業制堅持、免許更新制の否定、専門医・総合家庭医の未確立、 病歴などの医療情報管理の未熟性などにより、健康保険での「知的評価」の実施不能 状況の持続=診療工程設計能力の喪失、すごろく診療、投網型診療の蔓延
  8. 国民の健康リスクの増加による「医療に対する不満足感」=生活習慣病、多臓器疾 患患者の増加
  9. 一般裁判制度での医療過誤対応=PL法の逆で鑑定などを要し、長期間化、2重被害
  10. 薬剤、医療消耗品(特に輸入製品)、CT・MRIなどの機器が欧米と比較して高額化
  11. 米国のCDC(Centers of Disease Control)等が整備されず、臨床疫学の著明な遅れ
  12. 薬害に象徴される「厚生省・職能団体・大学・産業界の病的癒着体質」
  13. 日本医療機能評価機構の誕生まで客観的監査機構の欠如状態の持続、病院機能評価の受審率の低さ、結果の有効活用に対する制約=最低レベルに歩調合わせ

 医療経済が破綻した結果、介護保険の導入、医療提供体制の改革、薬剤を含めた保険評価基準の再検討が声高く語られている。しかし、その内容を見ると上記のような現存する基本的な問題の解決に取り組んでいるとは思われない。

   昭和63年11月より医真会グループで八尾を中心とした中河内地域の医療・福祉の一端を担ってきた者としてこのような国家的、組織的怠慢を直視しつつ、この地域での「医療の質の改善と患者のリスクを最小限にする」ために以下のような具体的行動指針を提案します。勿論、医療従事者の中核を成す八尾市医師会会員の各位には何よりもご検討いただきたく思います。

   


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