この研究大会で昨年講演させてもらってから1年が経ち、介護保険の問題点が一層明らかになってきました。もう一度、介護保険制度の根本的な問題はどこにあるのか、どうしていけばよいのか、についてお話をさせて頂きます。
ケアマネジメントの視点からみた 改正介護保険制度の基本的問題点 改正介護保険での基本的問題点ということで、今日は3つほど取り上げたい。 今回の介護保険で、一番大きな問題は、ワンストップサービスと、利用者の生活の継続性を崩したということです。介護保険が始まる前、ヘルパー・通所介護を利用するには、それぞれの市町村の窓口に行き、訪問看護を利用するには、直接訪問看護ステーションにお願いをしていました。また、デイケアを利用するには、直接デイケアセンターに行っており、それぞれの窓口がバラバラでした。 しかし、介護保険制度になってからは、居宅介護支援事業所(ケアマネジャー)にさえ行けば、すべての問題が解決できる仕組みを作ったのです。一箇所に行けば全ての問題が解決できるワンストップサービスです。さらには、利用者は在宅生活が終わるまでずっと、ケアマネジャーから支援を受けられる生活を継続して支えることができました。私はこの制度は世界に誇れるケアマネジメントの制度だったと思っています。 ところが、今回利用者を三種類に分けたのです。5%ぐらいの特定高齢者、そして要支援者、要介護者です。それぞれ行く窓口や利用するサービスが違い、ケアマネジャーも変わるため、ワンストップサービスがもろくも崩れてしまったわけです。さらには、生活の連続性を切ったのです。要支援2であろうと要介護1であろうと、そんなに状態は変わらないのですが、利用出来るサービスが違い、アセスメントシートも、ケアプラン用紙も変わるわけです。これがケアマネジメントの観点からみると大きな問題点です。 2番目に福祉用具での特殊ベッドの問題があります。改正介護保険では簡単にいえば、寝返りが出来ない人には特殊ベッドは渡すが、立ち上がりのために使うものではないということで、要支援、あるいは要介護1の人が使えなくなりました。その後、多くの利用者はベッドを自費で買ったとか、一応の結末はみたのですが、今回、制度的な矛盾を見直すということで、医師の意見とサービス担当者会議での了解、最終的に市町村が了解を得れば、4月1日からベッドを活用できるという話になっています。本来ならば、ケアマネジャーがサービス担当者会議で了解すれば使える制度にするのが本来のあり方であり、今回の改正が迷走していることを物語っています。ケアマネジャーに対する信頼がもう少し必要です。 三番目は、包括払いという制度が、今回の介護保険の介護報酬に導入されました。要支援が介護予防となり、もし、ヘルパーが行くと60分であろうと90分であろうと週1回と決められれば料金は同じです。デイサービスでは、介護予防で1回行こうが2回行こうが料金は一緒です。そうなると、事業者が利用者を選ぶという可能性があります。 要するに時間のかからない人、あるいは回数の少なくよい人を選ぶということが当然起こってくるわけです。包括払いを福祉の世界に導入するのは大変難しい。医療と介護の世界は全然違います。 例えば、アメリカでのDRGとして実施されている盲腸の場合35万円といった標準化にし、手術であればどれ位の経費がかかり、何日間入院をして退院するということが想定できます。医療はその人の病態を見るのです。でも介護というのはそれだけでは決まりません。 例えば要支援だったらヘルパーは1回何回と決めていますが、本人にやる気があるのかないのか、介護者がいるのかいないのか、あるいは夜だけしかいないのか、介護者は介護ができるのか、といった様々な要素があって必要な介護時間が出てきます。でも今の議論は要支援だったら何回という議論をしているのです。もう少し、ヘルパーを利用する要因は何なのか、デイサービスを利用する要因は何なのかという議論が本当は必要です。