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第16号   NEWSLETTER   大阪地域医療ケア研究会   2007年6月10日発行


介護予防は介護保険財源や利用者に影響を与えることが出来るか

  今回の改正の目玉は介護予防というキーワードです。介護予防というのは、要支援の人が要介護にならない。元気なお年寄りが介護保険サービスを使わないようにするということです。
予防をすれば保険財源は下がるのかということですが、ほとんど下がらないと言えます。アメリカでの研究で、禁煙運動により肺がんの罹患率が下がって医療費が下がりましたが、これはある時期までで、ある時になると医療費が急に上がってくるのです。肺がんにならなかった人が加齢とともに別の病気になることから、リバウンドするのです。
 今回、要支援の人のケアプランをケアマネジャーが作っていますが、それは要介護にならないプランではありません。要支援を出来るだけ長くしようというプランを作っているのです。例えば、みんな1年要支援か要介護になるのが延びるプランを作ったとします。そうすると1年後にはみんな要支援や要介護に入ってくるということです。だから介護保険の財源を押えるという論理ではないのです。介護予防をやるとすれば、要介護状態での予防が少しは財源抑制に貢献できます。
 二つ目の問題ですが、介護予防意欲のないものに対する支援はコストが高いということです。介護予防の意味は、本人の持っている能力や意欲を出来る限り活用しようということです。この本人の能力や意欲を活用するのは大変難しい仕事で、医療では、生活習慣病を予防しようとしていますが、意欲の全くない人の場合には失敗をしているのです。意欲がない人にはお金をかけてもあまり効果がありません。そういう意味で、今回の介護予防も本当に全ての人が持っている意欲や能力を活用できるのか。コストはかけたけれども、うまくいかないのではないかという問題を持っています。
 三つ目に介護予防プランがなぜ難しいのかというと、常に本人の意欲や能力に着目しなくてはいけないのですが、それには時間がかかるため、そういうことに対して配慮がないという現状があります。ここで考えなくてはならないのは、ケアマネジャーは、介護予防プランの何をしているのかということです。どういうプランを作っているかというと、「すいません。制度変わったので、訪問介護の回数を減らして下さい。ベッドを返して下さい。」という話をしてプランを作っているのです。利用者のニーズに合わせてプランを作っているのではなく、国の政策に合わせてプランを作っているのです。今のケアマネジャーは、国や市町村である保険者のメッセンジャーの仕事をしているのです。もっと利用者のニーズに応えるのが私たちの仕事ではないのでしょうか。今の話を簡単に言えば、予防により要介護者が減るのではなく、財源抑制プランを作っているため、財源が下がることになるのです。しかしながら、このようなプランは利用者の活動性を弱めるものであり、最終的には介護悪化促進プランになるでしょう。
 ケアマネジャーの立場からすると、押し付けられた事をやっていても面白くないのです。本当のケアマネジャーの仕事をやるのなら、利用者のニーズは何で、そのニーズを満たしていくことが必要だということを訴えていかないといけません。以前のケアマネジャーの原点に返り、利用者のニーズから捉えて、問題があるという指摘をして行くのが、ケアマネジャーの仕事なのです。そのメカニズムが完全に消えてしまっているので、利用者の健康寿命を延ばすことも無理な状況になってきています。

地域包括ケアは展開できるか

 地域包括ケアの目的は三つに整理が出来ます。
一つ目は、今までは、利用者は要支援、要介護者だけに焦点をあててきました。しかし、地域には、権利擁護を必要としている人たち、虐待を受けている可能性のある人たち、経済的に困窮をしている高齢者、あるいは高齢者自身には問題がないが家族に問題がある高齢者等がいます。そのため、高齢者全体という包括的な視点で支援をしていく意味での包括なのです。
 二つ目は、今までのサービスは介護保険のサービスをどう使うかに焦点を当ててきました。しかし、それに加えて権利擁護のサービスや民生委員、あるいはボランティアなどの家族の支援についても含めて考えていこうということです。さらには、利用者の有している能力や意欲といったセルフケアをも活用していこうということです。今までは、介護保険のサービスというフォーマルケアをどう使うかという事を議論してきましたが、もっと包括的にセルフケアやインフォーマルケアやフォーマルケアなどの社会資源を活用して、利用者を支えるのが包括だということです。
 三つ目は、今までの事後対応から、問題が起こらないように予防をするという視点を持ち、問題が起こっても早期発見、早期対応をするということです。介入する時点が予防という時点から早期に出来るだけ関わろうという考え方での包括です。
 以上の目的を生活圏の人口2万〜3万という範囲の中でやっていくというのが地域包括ケアです。ところが、いま地域包括支援センターではそんな理念は何もなく、要支援者の予防プランで精一杯です。地域包括支援センターの7割は委託を受けて民間が運営しており、3割は行政の直営です。地域包括支援センターが出来た根拠の一つに、中立公正のために作るという議論がありましたが、要支援の人たちは、地域包括支援センターでプランを作ってもらうわけですが、その時に、委託を受けている法人が作っています。その後、要介護になって他の事業所に行くかというと、人の思いとして同じ所にかかりたいと思うでしょう。いくらよそに行けといっても、今まで通り地域包括支援センターでのプランになるのです。要支援者を地域包括支援センターに追い込めば追い込むほど、民間の地域包括支援センターが多いので、要介護になった時に取り込んでしまうという結果になります。
地域包括支援センターは介護予防プランをほどほどにして、権利擁護や総合相談や見守り、ケアマネジャーのサポート、ネットワーク作りなどの仕事をして欲しいと思います。特定高齢者に対してプランを作るよりも、地域で自主的に介護予防活動することを支援することです。



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