次年度以降いかにサービス事業者は展開していったらいいかの視点 ◎利用者なり家族は施設志向が強い現状 都会では、病院を退院しても家にも帰れない、施設にも入所できない人が、小規模多機能を利用する人が増えています。理念的には地域密着の小規模多機能の考え方は正しいのですが、その理念のためには、やらないといけないことがあります。生活の継続性を支えながら支援をしていくことです。病院を退院した人が利用するというのではなく、地域の中で生活してきた人たちが利用できるという地域密着的な発想が必要です。 ◎重度者を中心にしたサービス体制 前々から申し上げているのですが、間違いなく介護保険の世界は重度者を中心としたものになっていきます。医療ニーズの高い人たちが、在宅で生活をすると医療保険と介護保険、医療と介護の連携は必要不可欠な状態になります。在宅療養支援診療所とケアマネジャーの両輪でターミナルケアやエンドオブライフをどう支えていくのか。そうした仕組み作りに転化をしていかないといけません。
◎サービスの質を高める時期 施設を例に取り上げてみますと、介護保険を始めるときに赤字にならないよう、常勤をパートに変えた結果、数%の儲けがありました。しかし、数%の儲けがあるのなら、介護報酬を数%下げようということになりました。この結果、また人を減らしパートに変えていきました。その結果、ケアの質を下げるための介護保険、コストだけの議論が先行した介護保険制度が作り上げられてきたのです。そのため、ケアの質を上げることにもう1回、シフトをしていかないといけないのです。過当競争の時代になって、医療の世界は質の向上をやってきました。診療報酬が決まって、次の診療報酬の間に収益が上がれば、その収益を次の経営のためにだけ使うのではなく、この時点でのサービスの質をどう高めようかということで、少し看護師を増やそうか、あるいは、ある部分の専門性を高めていこうかなど、そういう仕組みを作ってきたのだと思います。そのことから考えてみると、介護の世界も、ケアの質を高めるという方向付けをしていかないといけません。
◎特定事業者加算の活用 特定事業者加算の中味については問題があると考えていますが、経営的には特定事業者加算を見直してみたらどうでしょうか。特定事業者加算を取る場合、小さな事業所ではダメですが、Aという居宅介護支援事業所であれば、A・Bに分けます。今まで通りのヘルパー事業所と、特定加算を取ったヘルパー事業所の二つに分けて、「一般のヘルパーとレベルの高いヘルパーがありますがどちらにされますか。」と二つの選択肢を作ることは、経営的にはありうる話です。
◎利用抑制に伴う、介護保険外メニューの検討 介護保険で全ての利用者をみるという時代は終わり、重度者中心に見るという時代になってくると思います。あるいは重度者でも、一定のサービス以上は提供できないという時代がやってくるかもしれません。経営的な観点から言えば、介護保険外メニューの検討も非常に重要な時期にきているように思います。介護保険が始まって家政婦紹介所からヘルパー事業者に代わっているのはご存知だと思います。でも、改正介護保険で家政婦さんの需要が高まっています。ダスキンが介護保険外のヘルパー事業を展開しています。利用の抑制に伴って、利用者には介護保険外のニーズが発生します。それにどう応えていくかということが非常に大事なポイントになってきます。
サービス事業者の具体的な事業展開のポイント 今は新たな事業展開をするというよりも、自分たちの事業を固めていく時期なのではないのでしょうか。競争の中で勝ち抜いていくための準備をするうえで、介護サービス情報の公表の内容にヒントがあると思います。ここでの調査内容はたいしたことがないのです。ヘルパー事業者を例にとれば、「入浴のマニュアルありますか?」あれば○で、マニュアルの中味までは見ないのです。マニュアルを周知徹底していなくても、○なのです。ケアの質は問いません。事実だけを見ると、「訪問介護計画がありますか?」書いてあれば○で、中味は問いません。しかし、介護サービス情報の公表は、三つのことを聞くことで、ケアの質を高めることを可能にすると思います。 一つ目は、全ての人たちに一定の水準のケアをしなさいということではマニュアルがあり、職員にそのマニュアルが周知徹底されます。その結果、私たちはこうやってケアをしていこう。感染予防のためには、こういう事を必ずマニュアルとして位置づけておこうということになります。介護サービス情報の公表を単なる情報の開示とするのではなく、一定の水準を保つためにマニュアルを周知徹底することが、ケアの質を高める一番目です。 二つ目は、介護サービス情報の公表の中味に、個別のプランを作っているかどうかがあるのです。「訪問介護計画を作っていますか?」ということです。個人のニーズに応えた、サービスを提供するのか。それぞれが計画をきちんと作り、それぞれの担当の人が計画に基づいて、日々仕事が出来るようにしていくということで、ケアの質を高めていくことです。 三つ目は、ケアプランやマニュアルで、ケアを推進していく環境整備をしようということです。ハード面もソフト面もあるわけですが、例えば、自分の機関自らが研修をやっているか、カンファレンスをやっているのか、上司から担当者を指導できる体制が出来ているのか。ソフト面での環境整備の場合、デイサービスであればハード面でのバリアーはないか、職員を教育できる体制が整っているのか。という側面でもう一度点検をしてみることです。 介護サービス情報の公表は、いろんな問題があり、皆さんからいえば不満だらけなのかもしれません。もう一度、用紙に書かれていることをもとに、自分たちの業務を点検してみることをお願いしたいと思います。 (講演内容は編集の都合上一部省略させて頂きました)
<略歴> 1974年 大阪市立大学大学院修士課程修了(社会福祉学) 1983年 84年米国ミシガン大学老年学研究所在外研究員 1988年 大阪市立大学生活科学部社会福祉学科 助教授 1994年 大阪市立大学生活科学部人間福祉学科 教授 2000年 大阪市立大学大学院生活科学研究科 教授 2004年〜2006年 大阪市立大学大学院生活科学研究科 研究科長
<主な著書> 『ケースマネージメントの理論と実際』中央法規出版 『老人保健福祉計画実現へのアプローチ』中央法規出版 『社会福祉援助技術ノート』NHK学園 『介護保険とケアマネジメント』中央法規出版 『ケアマネジメント ハンドブック』医学書院 『生活支援のための施設ケアプラン−いかにケアプランを作成するか』中央法規出版 他著書・論文多数
<学会・社会貢献活動> 日本学術会議 会員 日本在宅ケア学会 理事長 日本老年社会科学会 理事 日本介護福祉学会 理事 日本社会福祉実践理論学会 理事 日本ケアマネジメント学会 理事 厚生労働省 社会保障審議会福祉部会 委員 日本社会福祉士養成校協会 会長 大阪府社会福祉審議会老人福祉部会 委員長 大阪市社会福祉審議会 委員長代理 大阪市住宅審議会 委員 堺市社会福祉審議会 委員長代理 全国訪問看護事業者協会 理事
<受賞> 吉村仁賞受賞(『ケースマネージメントの理論と実際』中央法規出版により) 福武直賞受賞(『ケースマネージメントの理論と実際』中央法規出版により)