プライマリケア

「自由な発想のクリニック」

JIM 第7巻 11号 1997年11月より抜粋
松尾クリニック  院長 松尾 美由起



クリニックはどんな企画でも自在であリ、思うことがすぐに実行できることが楽しみである。地域の住民と手を取り合って質の高い快適な医療を実現し、地域の医療機関、保健所、福祉機関とも連携が取れるように、1996年4月より訪問看護ステ―ション「来夢(ライム)」を誕生させたところである。


◆クリ二ックの構想
 循環器内科医としてめまぐるしく走り回っていた筆者が慢性期病棟を任されたとき、一種のカルチャ−ショックを覚えずにはいられなかった。急性期の患者さんの反応とは全い違ったからである。
 徐々に慣れていくうちに、ご家族、特にお孫さんが訪れると寝たきりの患者さんの表情が軟らかくなることなどがわかってきた。さらに、患者さんのお宅を訪問し、自分のなじみのものに囲まれて自然な生活をしている姿を見て、病院での「受け入れる医療だけではないのだと気づいたとき、意識変革が起こった。そして地域に根ざした巷の医療に携わり、病院と連携していく医療を目指して、1986年大阪・八尾駅前の三角形のビルの5階でクリニックをオープンしたのである。スペースは98坪あるが、三角形のためデッドスペースが多く、間取りに苦労した。

◆重装備のス夕一卜
 クリニックの第1の方針は「質の高い納得のいく診療」である。そのために設備はカラ一ドプラ超音波診断装置をはじめ、TVカメラ、ホルタ−心電図、エルゴメ−タ負荷心電図、上部消化管内視鏡など病院と変わらない重装備となった。循環器だけを診ていた筆者にとっては、グループとして外来を担当してくれる消化器の医師を頼りにしながら、研修医のつもりでの再スタ―トであった(表1)。何もかもが目新しく、子どものようにひたすら知識を吸収していった。病院では考えられなかったほど患者さんを近くに感じられるようになった

◆在宅医療はごく自然に始まった
 第2の方針は「親身な在宅診療」である。筆者自身、祖母を家でみとった経験からも在宅介護の負担や困難を身にしみていた。自分の家族だったらぜひともこうして欲しいという診療をしたかった。個々人にとって最適な医療環境をコーディネー卜することがまず第一歩であった。
 10年間の在宅患者さんとのつながりは多くの工夫を育てた。また自分の孫や子ども以上に大事に思ってもらったこともある。こんなとき、医療に携わっていて本当に良かったと思える。

◆患者さんとの人間関係か宝
 第3の方針は「患者さんとの交疏」である。開院してまもなく、心臓弁膜症の人にカテ―テルを勧めたがかなり躊躇しておられた。そんなとき、永年当院に通っている患者さんから「患者同士で話せる機会があるといいな」という言葉を聞き、患者会を発足させた。名前は「松樹会」といい、これまた患者さんが地域に深く根ざす樹木のように育つように、と名付けてくれたのである。
 病気の勉強会や食事会から始まって、手先の訓練にと七宝焼き教室、書道教室、手芸教室、手鞠教室などを次々開設した。講師はすべて患者ボランティアである。思いつくことが何でもできるのが開業の楽しみかもしれない。
 また、とある福祉センタ―から介護の実技の講義を頼まれた。今までの講演よりも聴講者の眼が真剣だったことにヒントを得て、病気や介護を題材にした劇をすることによって、講演よりもインパクトの強い何かができるのではないかと思いついた。そして元気になることならなんでもやってみようということから、患者さんの劇団「松ぽっくり」が生まれたのである(図2)。最初の意図だけではなく、運動効果やせりふのアドリブから頭の訓練にもなった。何よりも劇団員の人間的なつながりが生まれたことが嬉しかった。腹式呼吸が良いことからコ−ラス部もでき、1996年春には俳画教室も誕生した。
 ビル開業のためデイケア室はまだないが、みんなの作品を展示することも非常に励みになるため、年に一度の八尾市文化会館の展示室を借りて発表の場を設け、毎回約400点の作品を展示している。

◆病診連携は積極的に
 入院された方が不安にならないようにという気持ちと継続診療のため、そして自分の勉強のためもあって開院当初より病院に出かけていき、朝のクリニックの診療の前に回診させてもらった。最近ではオープンシステム、と認可された病院で登録医として診療させてもらってる。紹介先の勤務医と直に話したり、一緒に勉強させてもらうことで連携はよりスム―ズに行える。

◆患者さんヘの説明
 インフォ−ムド・コンセントについてはあまり特別なことはしていないが、以前より模型を使って説明したり、「あなたの病気について」という複写綴りのB6判の用紙に自由に書き入れたものを渡したりしてきた。これも患者さんと話し合いながら、一番わかりやすい方法を試行錯誤しながら作っていける楽しみがある

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