【第6回研究大会 2008年3月9日(日)】 「暮らしの中で生き、暮らしの中で死ぬ−家族・介護・看護を考える−」 実践報告・問題提起からのご報告
実践報告(2) 「半過疎地で在宅医療に取り組んで、24時間体制を考える」 医療法人 あいち診療会 理事長 畑 恒土 氏
患者さんの希望を何でも聞くという形でやっているなかで、ショートステイに預けたいという家族がたくさんみえました。ショートステイが見つからない時は、その方をつれて直接特別養護老人ホームや老健施設などに「預かってもらえないだろうか」と交渉に患者さんを連れていったりしていました。認知症や、医療依存度の高い方というのはなかなか受け付けてくれません。ですから、プレハブの建物の中でお年寄りを預かりました。外来もやっていましたので、その時間は事務室でお年寄りを預かるというデイケアのような形で取り組みをしていました。 「お正月くらいは認知症のばあさんとは一緒に暮らしたくない」という家族のために、正月休みの診療所に畳を敷いてそこでショートステイをやるというようなこともしました。どうしてもそういう方に対するショートステイやデイサービスが必要だということで、3年後に建物を建てました。利用者に対して必要なサービスを探していくうちに、地域になければ作るしかないという形で作り始めて、いつの間にか色んなものを作り、いつのまにかミニ複合体という形になってきたのです。 こういうことをやっているうちに地方から「あなた達がやっているのと同じ様なことをうちの地域でもやってほしい」と言っていただいて、地方に出ることになりました。都市部と過疎地で何が違うかというと、一番大きいのは患者さんに選択権があるかどうかということです。都市部では医療機関がいくつもあるので患者さんが選択することができます。ただ、過疎地に行くと医療機関の選択ができないのでその辺のサービスを全て引き受けなければいけません。
グループホーム 『いろり庵』 『いきいき、ころり』という意味で、最初は『ころり庵』にしようかと思ったのですが、ちょっとあんまりなので『いろり庵』にしました。 グループホーム『いろり庵』では地域の方との結びつきをできるだけ作り、そこから色んな情報発信をしたいということで、筋トレ教室というのを始めました。30名〜40名週に1回集まっていただいております。また『いろり庵』の入居所が、通学路に立って「おはよう」と声をかける『あいさつ隊』というのをやっています。小学生たちは、最初は返事をしてくれなかったのですが、段々慣れて「おはよう」と言ってくれるようになります。 浅井町のような所は、若者には非常に窮屈な人間関係があったりします。法事で『おとりこし』という、神様が色んな家にいくのでそれを迎えるための行事で、その家に地域の人が全部上がりこんで準備をするというような事があります。また、子供の教育体制に不安があるとか、病院がないとか、自然の厳しさ、農作業を嫌って街に子どもが出て行ってしまう。高齢者はそこに人間関係が十分あって慣れている、子どもが帰ってくる場所を確保しておかなければいけない。あるいは自然との営みの中に色んな役割があるというようなことで残ります。ここの高齢者は、要介護状態になって街の子どもに引き取られて、慣れない街でやることがなく、コタツに入ってテレビを観るしかない生活に入ること。それだけは避けようと皆さんがんばっておられます。要介護状態になったら街に行くしかないけど、その時期を少しでも遅らせたい。それを私たちは何とか支えたいと考えています。
24体制について特に看護師と医師の役割 次に、24時間体制について。医師の専門性、看護師の専門性。乱暴に言いますけど、侵襲的な処置をしたり、診断したり、治療の指示を出すということが、医師にしかできない事です。看護師というのは生活全般を整えるというのがひとつの仕事であって、もうひとつは診療の補助というのがあります。医師は体調が悪化したときに力を発揮します。体調が変わらなければ新たな検査も必要ないし、新たな指示を出す必要もありません。看護師というのは、悪化しないように生活を整える。体調が悪化しないように力を発揮してくれます。看護師は医師が必要か否か判断ができます。看護師は「これは医師の出番だ」と思えば医師に連絡をすることができます。では医師に看護ができるかというと、医師に看護はできません。資格としては看護師のやることは何でもできますが、医師に看護の能力があるかと言ったら、能力があるとは思えません。実際医学部で看護学というのは教えていません。 『のなみ看護ステーション』には、90人くらいの利用者がいます。1日のうちに朝の6時位から12時位と夕方に集中して連絡が入ります。医師が動くのは大体日中で、夜はほとんど動いていません。看護師だけが対応して、医師に報告も何もないというのが42回。医師の出動はこの54日間で11回だけです。電話連絡が入る対象者というのはかなり限られています。 何度も連絡が入る14人の方の病気と必要な処置を表にあげましたが、同じ患者さんが何回もコールされます。109回のコールの内90回はこの14人から入っています。残り19回に対し17人からコールがあり、全体で90人ですから、76人に対しては19回コールがあっただけという事になります。 呼び出しの内容で、看護師のみで対応したのは痰がらみの訴え、点滴のトラブル、バルーンのトラブル。一人で座薬が入れられないので入れて欲しいということで連絡が入ります。この手のものには看護師のみで対応して医師には報告をしていないということになります。あとは主治医に報告をして、主治医は動かずに内服の指示を出すといのが吐き気、下痢、発熱、痰などです。
在宅サービスステーションの提案 今、在宅療養支援診療所というのができています。私は在宅サービスステーションというものを是非作って欲しいと考えています。在宅サービスステーションというのは、訪問看護ステーションが母体になり、訪問看護だけではなくリハビリも含めて訪問系のサービスを提供するステーションで、ショートステイとデイケアもやるというようなものができたら良いなと思っています。そうすると、在宅で看る患者さんの数が1人2人と少ない医師でも在宅サービスステーションと組むことによって、かなり連携のとれた診療ができます。在宅療養支援診療所に対しては、先ほど示した14人のように医療依存度が高く、コールが多い人に対する対応に特化していただいて、人工呼吸器をつけている、中心静脈栄養の管理がある、透析をしているような方などに対するデイケアやショートステイ、あるいは24時間体制を取ってもらえるターミナルステージに入った時に主治医を変えなくても良く、ずっと看てもらったかかりつけ医に家で看てもらえるという体制ができるのではないかと考えています。